Power BIのセマンティックモデルは、データの構造を定義し、ユーザーが理解しやすく、分析しやすい形に整えるための機能です。
データモデル、レポートを作成すると自動的に作成されるため、あまり意識することがないかもしれませんが、重要な要素です。
データをビジネスに関連する情報として表現し、エンドユーザーが複雑なデータソースに対して容易にアクセスできるようにするために、データの意味的な層を提供します。
Power BIのセマンティックモデルの概念、構成要素などについてまとめます。
セマンティックモデルの主な役割
セマンティックモデルの主な目的は、次の2点です。
- データの意味付け
生のデータがもつ技術的な複雑さを隠し、ビジネスユーザーが簡単に理解できるようにデータに意味を付与します。 - データの再利用性向上
複数のレポートやダッシュボードで同じデータを一貫して利用できるようにし、データの一貫性を保ちます。
Power BI セマンティックモデルの主要コンポーネント
テーブル
テーブルは、ビジネスエンティティ(顧客、製品、注文など)を表し、行と列で構成されています。テーブル内の各列は、特定の属性(顧客名、注文日、製品価格など)を表します。
リレーションシップ
Power BIでは、異なるテーブル間の関連性をリレーションシップで定義します。
例えば、売上テーブルと製品テーブルを「製品ID」をキーにして結びつけ、関連するデータを統合して分析できるようにします。リレーションシップは、1対1、1対多、多対多といった異なる関係があります。
メジャー
メジャーは、集計や計算結果を表す数式です。
これには、合計、平均、最大値、最小値、複雑な計算式などがあります。例えば、「売上合計」「利益率」「顧客あたりの平均注文額」などを定義できます。メジャーは、DAX(Data Analysis Expressions)というPower BIの計算言語を使って作成します。
ディメンション
ディメンションは、データの階層構造や分類情報を提供する要素で、集計軸となります。
たとえば、時間ディメンションでは「年」「月」「日」といった階層が設定され、売上データを時間軸で分析することが可能です。製品ディメンションでは「製品カテゴリ」「製品名」「ブランド」などを使ってデータを整理します。
階層
階層は、データを階層的に分類するための構造です。
たとえば、「国 → 都道府県 → 市区町村」のような地理的な階層や、「年 → 四半期 → 月」といった時間的な階層がこれにあたります。階層を使うことで、データをドリルダウンし、詳細レベルでの分析が可能になります。
ロール
ロール(役割)を定義することで、特定のユーザーに対して表示するデータを制限することができます。例えば、営業担当者ごとに自分の売上データのみを閲覧できるように制限することが可能です。この機能は、Power BIの「ロールレベルセキュリティ(RLS)」を使用して実現します。
セマンティックモデルの利点
ビジネスユーザーのデータ利用を簡素化
セマンティックモデルを通じて、エンドユーザーは複雑なデータモデルやクエリの理解なしに、ビジネスに関連したデータを簡単に取得し、分析することができます。ビジネスに必要な指標やメジャーを事前に定義することで、ユーザーがクエリを作成する手間を削減できます。
データの一貫性と再利用性
一度構築されたセマンティックモデルは、複数のレポートやダッシュボードで利用でき、一貫したデータの見方を提供します。これにより、同じデータセットを複数のユーザーが異なる視点から利用しても、データの一貫性が保たれます。
パフォーマンスの向上
セマンティックモデルを使用することで、データが最適化され、効率的にクエリを実行できるようになります。Power BIのセマンティックモデルは、内部で高速なインメモリエンジンである「VertiPaq」を利用しており、大量データでも迅速な集計が可能です。
セキュリティの強化
ロールレベルセキュリティを使用して、特定のユーザーがアクセスできるデータを制限できます。これにより、機密情報の漏洩を防ぎ、必要な情報だけが適切なユーザーに提供されます。
セマンティックモデルの設計のポイント
適切なリレーションシップの設計
正しいリレーションシップを定義することは、モデル全体のパフォーマンスと正確性に直接影響を与えます。Star Schema(スタースキーマ)やSnowflake Schema(スノーフレークスキーマ)といった構造を採用することが推奨されます。
必要に応じて計算列とメジャーを使い分ける
計算列はデータのロード時に計算されるため、パフォーマンスに影響を与える場合があります。集計や頻繁に使われる計算には、メジャーを活用する方が効率的です。
階層の適切な設定
ビジネスユーザーがデータを簡単にナビゲートできるように、自然な階層を作成することが重要です。これにより、ユーザーがデータを直感的にドリルダウンして、必要な詳細を取得しやすくなります。
セマンティックモデルの保存
Power BI デスクトップファイル(.pbix)
Power BIのデスクトップアプリケーションを使用して作成したセマンティックモデルは、.pbixファイルとして保存されます。このファイルには、以下のデータが含まれます。
- インポートされたデータ(モデル内の実データ)
- 定義されたテーブル、リレーションシップ、メジャー、ディメンション、階層などのメタデータ
- レポートのビジュアルデザイン(レイアウト、グラフなど)
.pbixファイル内には、Power BIのセマンティックモデルがタブラー形式で保存されており、必要に応じて他のユーザーと共有したり、Power BIサービスにアップロードすることができます。
インポートモードとDirectQueryモード
セマンティックモデルのデータの保存方法は、接続モードにより異なります。
インポートモードの場合、Power BIデスクトップやPower BIサービスにデータがインメモリでキャッシュされ、セマンティックモデルに組み込まれたデータが、効率的に圧縮されて保存されます。.pbixファイルにはデータ自体も保存されます。
DirectQueryモードの場合、データ自体は外部のデータベースやソースに保持され、Power BIにはデータが保存されません。セマンティックモデルとしては、データソースとのリレーションやクエリが定義されるのみです。クエリ実行時にリアルタイムでデータが取得され、セマンティックモデル内のデータ定義に基づいて処理されます。
Power BI Service(クラウド)
.pbixファイルがPower BI Service(クラウド)に公開されると、セマンティックモデルはデータセットとして保存されます。データセットはPower BIのクラウド環境にアップロードされ、共有や更新ができる形で保持されます。
Power BI Serviceのワークスペースを開くと、一覧にレポートとセマンティックモデルが表示されます。Power BI Desktopから、Power BI Serviceのセマンティックモデルにアクセスし、レポートやダッシュボードの作成を行うことも可能です。
データセットには、モデルに含まれる全てのメタデータ(テーブル、リレーションシップ、メジャー、階層など)が保存され、クラウド上でPower BIのユーザーがアクセスできます。データがインポートされている場合は、データもクラウドに保存されますが、DirectQueryモードの場合は、データソースにリアルタイムでアクセスする仕組みです。
まとめ
Power BIのセマンティックモデルは、データの意味を明確に定義し、データの一貫性を保ちながら、ビジネスユーザーがデータにアクセスして分析を行いやすくします。セマンティックモデルを正しく構築することで、操作性、メンテナンス性が向上すると期待されます。