全国展開するラーメンチェーン「天下一品」で、近年店舗の閉店が相次ぐ現象が「閉店ラッシュ」として話題になっています。
特に2020年以降からその傾向が顕著で、東京都内など都市部を中心に複数店舗が同時閉店するケースが見られ、大きく報じられました。
例えば2024年6月末には、新宿歌舞伎町店や池袋東口店、恵比寿店など首都圏の6店舗が同日に閉店し、ラーメンファンに衝撃を与えています。
この同時閉店は一企業(アトラスアンドカンパニー)によるフランチャイズ店舗の一括閉店であり、チェーン全体の経営悪化というより個別の経営判断と見られます。
その翌年2025年にも、東京・吉祥寺店をはじめ新宿西口店や渋谷店、目黒店など複数店舗が6月30日付で閉店予定であることがSNS上で報じられ、再び話題となりました。
さらに地方でも、京都府や滋賀県、福岡県など各地で閉店が確認されており、まさに全国規模で店舗減少が進んでいる状況です。
閉店店舗数の推移とフランチャイズの内訳
天下一品はピーク時には約230~240店舗を擁していたとされ、2021年時点で国内234店舗に達していました。
しかし近年はやや減少傾向にあり、2023年6月時点で222店舗だったのが、2025年初頭には約212店舗と約10店減少しています。
この1年半で約10店舗の純減という数字自体は、業界標準から見て大きな異常とは言えない範囲とも指摘されています。注目すべきはその内訳で、多くがフランチャイズ(FC)店の閉店であるようです。
Web上の情報で「閉店のほとんどがFC店で、直営店はさほど閉店していない」との指摘があります。
つまり、フランチャイズ契約先の経営状況や戦略見直しが店舗整理につながっているケースが多く、直営店そのものの大量閉鎖は起きていないようです。
一方で公式には店舗数の増減について「お問い合わせにはお答えを控えさせていただいております」とコメントされており、詳細な内訳は明らかにされていません。
閉店が相次ぐ主な要因
閉店ラッシュの背景には複合的な要因が指摘されています。以下、主要なポイントを整理します。
新型コロナ禍の影響
2020年前後からのコロナ禍で飲食業界全体が大打撃を受け、天下一品も例外ではありません。
特に深夜営業で繁盛していた都市部店舗は、外出自粛や営業時間短縮要請で売上が大きく落ち込みましたと言われています。
緊急事態宣言下で「飲み会後のシメの一杯」といった需要も激減したと考えられます。
原材料費高騰・人件費上昇による経営圧迫
近年の物価高により、スープの材料や麺の仕入れ価格、光熱費が軒並み上昇しました。さらに深刻な人手不足でアルバイト時給も高騰し、人件費負担が増大しています。
ラーメン店は元々利益率が高くない上に値上げも限界があり、これらコスト増は経営を直撃しました。
特に個人経営や小規模チェーンは体力が弱く、全国的にも2023年度のラーメン店倒産件数(負債1,000万円以上)は過去15年で最多の45件に達するなど、業界全体で閉店が増える一因となっています。
販売価格の上昇と顧客離れ
コスト増に対応するため、天下一品も度重なる値上げを実施しました。看板商品の「こってりラーメン(並)」は2022年6月の値上げで700円台から一気に900円近くになり、2025年時点では並一杯あたり940円前後が一般的です。
トッピング追加や大盛にすると容易に1,000円超となる価格帯になり、これが心理的な壁”となって来店頻度を減らす要因になったと考えられます。
値上げ以降SNS上では価格高騰を嘆く声が多く見られました。
天下一品は元々「安くて美味い深夜の一杯」として学生や若者にも支持されてきましたが、800円台後半~1,000円超の価格設定になるともはや高級ラーメンと捉えられかねず、従来層の客離れを招いたと考えられます。
競合激化と代替トレンドの台頭
ラーメン市場はコロナ禍前後で店舗数が急増し、2023年に約1万6,200店と過去最高水準に達しました。
このため一店舗あたりの競争は熾烈で、味やサービスに特徴がなければ生き残りが難しくなっています。
天下一品の場合、独特のこってりスープが強みですが、近年は他にも「二郎系」「家系」などこってり系の人気店が増え、さらには魚介系つけ麺ブームなど新たなトレンドも台頭しています。
こうした多様なライバルに囲まれ、従来のファンがそちらへ流れるケースや、新規客の取り込みが伸び悩む状況が考えられます。
味や品質に対する評価の変化
天下一品ファンの間でも「味が変わった」「麺が短くなった」など品質への不満の声が広がった時期がありました。
これは必ずしも全店での事実ではないにせよ、店舗ごとの味のブレが可視化されたことで、熱心なリピーターが離反する一因になったとも考えられます。
味の統一が難しいチェーン展開ゆえの課題が、閉店増加の背景にある可能性も否めません。
消費者の嗜好やニーズの変化
ラーメンを取り巻く消費者の志向も、この数年で変化しています。
まず指摘されるのが健康志向の高まりです。
天下一品のこってりスープはコクと濃度が魅力ですが、脂質も多くカロリーが高めです。コロナ禍以降、自宅での食事機会が増えたこともあり、ヘルシー志向や糖質オフ・減塩などを意識する層が拡大しました。
その結果、「毎週のように天一でこってり」という従来のヘビーユーザーでも頻度を減らしたり、替え玉を控えるなど摂取量を調整する傾向があると言われます。
次に価格志向(コスパ重視)の強まりです。景気低迷や物価高騰で可処分所得が圧迫される中、安価なチェーンへの支持が顕著です。
実際、首都圏で数百店舗を展開する激安中華チェーン「日高屋」は、中華そばを税込390円に据え置く戦略で純利益前年比2倍の絶好調となりました。
その一方、天下一品のように並ラーメン一杯800円以上・トッピング次第で1,000円超という価格帯は、学生やサラリーマンにとって日常使いしづらい水準になっています。
「どうせ1,000円払うなら他の名店や特別な一杯を」と考える消費者も増え、低価格帯or付加価値重視の二極化で、中途半端に高いチェーン店は選ばれにくくなっている状況です。
さらに個人経営や専門店の台頭も見逃せません。昨今はSNSや口コミサイトで話題になる個人店・職人系ラーメン店が増え、行列のできる人気店が各地に生まれています。
こうした店は独自のスープや限定メニューで差別化し高価格でも支持を集めています。
天下一品も「ここでしか味わえないこってり」という強みはあるものの、チェーンゆえの画一感からトレンドに敏感な若者層には飽きられつつあるとの指摘もあります。
一方で、逆に最近はあっさり系やビーガンラーメンなど健康・新志向の商品も注目されており、こってり一辺倒では多様なニーズに応えにくくなっています。
つまり、消費者の好みの多様化が進んだことで、天下一品の強烈な個性が以前ほど幅広い支持を得られなくなり、一部店舗の苦戦につながっている面もあると言えます。
ラーメン業界全体の動向と天下一品特有の事情
業界全体で見ても、ラーメン店はコロナ禍を経て厳しい状況にあります。
市場規模自体は2023年に前年比7%増の4,385億円と回復傾向にあるものの、未だコロナ前水準には届いていません。その上で店舗数だけが増えて競争過多となり、前述の通り倒産・閉店件数が過去最多を更新する事態です。
こうした流れは天下一品に限らず、大手チェーンでも値上げや閉店、メニュー刷新などの対応を迫られています。例えば業界他社では幸楽苑が低価格帯メニューを強化し、日高屋が値上げ幅を抑えるなど、それぞれ生き残り策を講じています。
天下一品も例外ではなく、チェーン全体として逆風に立たされている点は他のラーメン店と共通です。
しかし、その中でも天下一品特有の事情も存在します。
ひとつは高原価率の問題です。天下一品のこってりスープは大量の鶏ガラや野菜を長時間煮込む独自製法で、材料費・光熱費のコストが高めと言われます(他社比でスープの原価率が高いとの指摘あり)。つまり一杯あたりの利益が出にくく、値上げしないと利益が維持できない構造があるようです。
しかし値上げすれば前述の通り客離れリスクが高く、ジレンマに陥りやすいチェーンと言えます。この点、安価なスープで回転率を上げる業態の日高屋などとは事情が異なります。
またフランチャイズ展開ゆえの難しさも挙げられます。
味のばらつき問題や、一部FC経営企業の撤退によるドミノ倒し的閉店(6店舗同時閉鎖など)は、フランチャイズ比率の高い天下一品ならではの現象です。
直営比率が低いため、本部が直接コントロールできない部分でのリスク(経営方針の不一致や人材確保難など)が表面化しやすくなっています。
実際、2024年の都内6店閉鎖では「天下一品グループ全体の経営状態を直接反映したものではない」とも報じられており、チェーン全体は黒字でも局所的な撤退が起こりうる状況です。
さらに、天下一品は創業50年を超え老舗チェーンとなりました。その結果、新鮮味を欠くと感じる層も出てきており、マーケティングの難しさも特有の課題です。
他チェーンが期間限定商品やコラボ企画で話題作りをする中、天下一品は「毎年10月1日の天下一品祭り」程度で大きな新奇性が少ないとの声もあります。強固なブランドイメージがある反面、変化への対応が緩慢だと、時代に取り残される危険も孕んでいます。
公式の見解と世間の反応
天下一品本部は今回の閉店ラッシュについて公式に詳しい声明は出していません。
各閉店店舗では貼り紙等で「諸般の事情により閉店」と案内されているようで、公式には具体的理由の言及は避けられている印象です。
一部には「店舗整理の一環」「契約満了による閉店」などと説明された例もあるようですが(閉店告知ポスターより)、総じて詳細は伏せられています。
SNS上では「馴染みの天一が無くなるなんて寂しい」「学生時代通った店が閉まるのは悲しい」と惜しむ声が多数上がりました。
一方で「久々行ったら高級ラーメン店みたいな値段になっててびっくり」「味落ちたのでは?」といった指摘も散見されます。ネットニュースでも「閉店ラッシュがSNSで話題」「高価格で大量閉店か」などと大々的に取り上げられています。
おわりに
以上、天下一品の全国的な閉店ラッシュについて、時系列の傾向から背景要因、業界動向と消費者ニーズまで多角的に考察しました。コロナ禍以降の逆風や物価高・競争激化による構造的な課題に加え、天下一品特有の価格設定や味の課題が重なった結果といえそうです。