企業におけるデータ活用は年々重要性を増しています。
特に DX(デジタルトランスフォーメーション) が進むなかで、データをどう蓄積し、整理し、活用するかは競争力に直結します。
その中核となるのが「データレイク → データウェアハウス → データマート」という3層構造です。
本記事では、それぞれの役割と違い、なぜこの3層が必要なのかを整理して解説します。
Contents
データレイク(Data Lake)
特徴
- 生データをそのまま保存する領域
- 構造化データ(売上データ、顧客データ)だけでなく、
非構造化データ(ログ、画像、音声、IoTセンサー情報など)も格納可能 - 形式に縛られない「巨大な貯水池」のイメージ
メリット
- あらゆるデータをロスなくため込める
- 将来必要になるかもしれないデータも保持できる
- データサイエンティストがAI/機械学習で活用しやすい
注意点
- 加工されていないため、分析にすぐには使いづらい
- 放置すると「データスワンプ(沼)」になり、何がどこにあるか分からなくなる
データウェアハウス(DWH)
特徴
- 整理・加工されたデータを格納する倉庫
- 主に構造化データを対象に、分析しやすい形に変換して蓄積
- データレイクから必要な情報を取り出し、クレンジング・集計・正規化を実施
メリット
- データの整合性・品質が担保される
- 経営指標やBIツールでの分析に適した形になる
- 「全社共通のデータ基盤」として利用可能
注意点
- データを投入する前処理(ETL/ELT)が必要で構築コストが高い
- 非構造化データは扱いづらい
データマート(Data Mart)
特徴
- 特定部門や業務に特化したデータセット
- DWHから切り出し、利用者ごとに最適化された「小さな倉庫」
- 例:営業部向けの売上分析マート、マーケティング向けの顧客行動マート
メリット
- 部門ごとの利用ニーズに応じて高速に分析できる
- 利用者にとって分かりやすく、すぐに活用可能
- DWH全体に負荷をかけずに利用できる
注意点
- マートごとに加工が必要で、乱立すると管理コスト増大
- 全社横断的な分析には不向き
3層構造での関係性
以下の流れで構築されることが一般的です。
データレイク(すべてのデータ)
↓
データウェアハウス(整理済みの全社データ)
↓
データマート(部門特化データ)
- データレイク:とにかく何でも入れる
- DWH:全社で使えるようにきれいに整える
- データマート:使う人の目的に合わせて取り出す
なぜ3層構造が必要なのか?
- 柔軟性:レイクに置いておけば、将来の活用に備えられる
- 信頼性:DWHで品質を担保することで、経営判断に耐えるデータ基盤になる
- 即時性:マートがあることで、現場ユーザーがすぐに意思決定に活用できる
この仕組みによって、企業は「全部のデータを失わずに保持しつつ、業務に必要な形で活用する」ことが可能になります。
データレイク、DWH、データマートに適したクラウドサービス
データレイク向けサービス
データレイクは「何でも入れられる貯水池」なので、クラウドのストレージサービスが中心になります。
代表的なサービスは以下です。
- Amazon S3(AWS)
- デファクトスタンダードなオブジェクトストレージ
- 多くの分析・AIサービスと連携可能
- Azure Data Lake Storage (ADLS)
- Azure Blob Storage をベースにした大規模データレイク向けストレージ
- Synapse や Databricks と統合しやすい
- Google Cloud Storage (GCS)
- GCP のオブジェクトストレージ
- BigQuery とスムーズに連携可能
スケーラブルで安価に大量データを蓄積でき、非構造化データ(ログ・画像・IoTデータ)も格納可能。
データウェアハウス向けサービス
DWHは「整備済みの全社データの倉庫」。
SQLベースで高速にクエリが実行できるクラウドDWHが最適です。
- Amazon Redshift(AWS)
- クラウドDWHの先駆け
- S3やQuickSightなどAWS製品と相性良い
- Azure Synapse Analytics(Azure)
- DWHとビッグデータ分析を統合したサービス
- Power BIとシームレスに連携可能
- Google BigQuery(GCP)
- サーバーレスDWHでフルマネージド
- 高速・スケーラブル、料金は従量課金制
- Snowflake(マルチクラウド対応)
- AWS, Azure, GCP どれでも利用可能
- ストレージとコンピュートが完全分離され、柔軟にスケールできる
高品質なデータ分析基盤を提供し、BIやダッシュボードで活用しやすい。
データマート向けサービス
データマートは「部門や用途に特化した小規模な分析用データ」。
DWHから切り出して、分析ユーザーがすぐに使える形で提供します。
- Amazon Redshift Spectrum(Redshift上のマート作成)
- BigQuery のデータセット分割(部門ごとにマート化)
- Azure Synapse のデータマート機能
- 2022年以降追加され、Power BIユーザー向けに簡易マートを作成可能
- Databricks SQL + Delta Lake
- マートを柔軟に定義して提供可能
- BIツール側のマート化(例:Power BI データセット、Tableau Extract)
- 部門ごとにDWHから取り出して、BI側でマート的に利用
部門ユーザー(営業、マーケ、経営企画など)がすぐに使えるように、DWHの一部を切り出す/BIツールに最適化する。
まとめ
- データレイク:生データの貯蔵庫(自由度高いが雑多)
- DWH:全社用に整理された倉庫(品質重視)
- データマート:部門用に特化した小さな倉庫(使いやすさ重視)
この3層を組み合わせることで、企業は「原始的なデータ → 整理済みデータ → 活用データ」へと段階的に進化させ、データドリブンな意思決定を支えることができます。