スポンサーリンク

脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」破産の背景

記事内に広告が含まれています。

2025年8月18日、脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」を展開する運営会社MPH株式会社に対し、東京地方裁判所が破産手続きの開始決定を出しました。

突然の破産報道は、多くの利用者に衝撃を与えています。

本記事では、この破産に至った事実関係と背景、ミュゼプラチナムのビジネスモデルやサービスの特徴、マーケティング戦略、競合他社との比較や業界動向、ブランド価値と顧客ロイヤルティの観点、消費者行動・心理の変化、その上で浮かび上がる今後の教訓や示唆(企業側・消費者側それぞれ)についてまとめてみます。

スポンサーリンク

破産報道の事実と背景

破産の概要

ミュゼプラチナムを運営するMPH社は2025年8月18日付で東京地裁より破産手続き開始決定を受けました。負債総額は約260億円に上り、脱毛サロン業界では過去最大規模の倒産となりました。

特に、施術を受けられないまま残っている前払い契約を抱えた顧客が約123万3千人に達し、その未提供サービス代金だけでも合計約124億円にのぼると報じられています。これは一般消費者に大きな被害を及ぼす異例の事態です。

経営悪化の経緯

実はミュゼプラチナムは2025年春頃から経営が混乱しており、店舗は同年3月中旬以降、全店で営業休止に追い込まれていました。約2,500人の従業員に対する1月から4月分の給与約15億円が未払いとなり、生活に困窮した一部従業員たち10名が5月16日付で東京地裁に破産開始を申し立てる事態となっていました。

運営会社は当初「事業再生に向けて邁進して参ります」とコメントし、破産申し立てには「事業継続しながら再建を目指す方針なので理解を求める」としていました。

破産回避策と失敗

経営陣は破産を避けるため、2025年6月2日付で株主総会にて会社の解散を決議し、通常清算(特別清算)による債務整理を図ろうとしました。

直営の全店舗を閉鎖する一方、フランチャイズ契約の店舗は系列企業に引き継ぎ、さらに個人サロンに技術提供する新サービス「どこでもミュゼ」で残る契約顧客への施術継続を図る措置も講じました。

こうして顧客救済と未払い給与の分割支払いによる解決を模索しましたが、しかし債権者(従業員側)と十分な合意形成ができないまま7月末に至り、裁判所が最終的に破産手続き開始を決定するに至ったのです(tdb.co.jp)。

背景要因

これほどの経営悪化に至った背景には、内部的な経営問題に加え、外部環境の変化が複合的に影響しました。ミュゼプラチナムはもともと前受金(顧客からの前払い)に依存したビジネスモデルをとっており、成長が鈍化すると運転資金不足に陥りやすい脆弱さを抱えていました。

加えて、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下では店舗休業を余儀なくされ売上が急減し、その後も客足の回復が思わしくありませんでした。

さらに2023年春には老舗電機メーカー船井電機グループ傘下に入り再建を図りましたが、親会社の経営破綻により資金支援が頓挫し状況は好転しませんでした。結果として2024年以降は広告費未払い・給与遅配など信用不安が広がり、経営陣の再建策も奏功しないまま今回の破産に至ったのです。

スポンサーリンク

ミュゼプラチナムのビジネスモデルとサービスの特徴

前払い型の収益モデル

ミュゼプラチナムのビジネスモデルは、顧客に脱毛施術コースを契約時にまとめて購入してもらう前払い制が主軸でした。例えば「〇回コース」「通い放題プラン」などと銘打ち、契約時に数万円から数十万円単位の料金を一括前納させる形態です。

その代金は本来ならサービス提供に応じて按分して売上計上すべきものですが、ミュゼではかつて契約時に全額を即時売上として計上していました。この方法は急成長期には現金が潤沢に入り店舗拡大や大規模広告に充てられる利点があります。

しかし、一旦成長に陰りが見えると、将来の施術提供に必要な資金まで先に使い込んでいるために運転資金が不足し、サービスを提供するためのコストを新規顧客の前受金で穴埋めしなければならない構造的なリスクを孕んでいました。

サービス内容と店舗展開

サービス面では、美容ライト脱毛(光脱毛)と呼ばれる方式で全身や部分的なムダ毛ケアを提供していました。医療機関のレーザー脱毛に比べ出力が抑えられ痛みが少ない反面、十分な効果を得るには多回数の施術が必要で、定期的にサロンに通う必要があります。

このため、顧客は「〇年間通い放題」「〇回コース」といった長期契約を結ぶことが多く、ミュゼは全国各地に店舗網を広げて通いやすさをアピールしました。最盛期には全国で約170店舗を直営展開し、主要都市から地方まで幅広く出店していた点が特徴です。

またスマホ予約アプリを導入して24時間いつでも予約変更できるようにしたり、引っ越し・旅行先でも近隣店舗で施術を受けられる仕組みを整えたりと、利便性向上にも努めていました。

リーズナブル戦略と安心感

料金面では「両ワキ+Vライン脱毛6回コースが100円」といった破格のキャンペーンを恒常的に打ち出し、初めての客を大幅に値引きしたお試しプランで獲得するマーケティングを行っていました。例えば「100円で何度でもワキ脱毛通い放題」といった宣伝は業界内でも話題となり、極めて安価に脱毛デビューできる手軽さを前面に押し出して集客していました。

一方、契約後は追加部位の勧誘や上位コースへのアップセルも行われていたとされ、安価プランを入口に顧客単価を上げるビジネスモデルでもあったようです。また、途中解約時の残金返金保証など、一定のサービス保証を設けて顧客に安心感を与える工夫もみられました。このように手頃な価格設定と全国規模の店舗網、高い利便性を組み合わせ、「安くて通いやすい脱毛サロン」というブランドイメージを築いていたのがミュゼプラチナムの特徴でした。

ミュゼプラチナムのマーケティング戦略

ミュゼプラチナムは創業当初から大規模な広告宣伝を展開し、若年女性を中心に強い印象を残しました。人気モデルやタレントを起用したテレビCM・雑誌広告により知名度を一気に高め、SNSでも話題になるキャンペーンを連発しました。

特に「初回○○円」の破格キャンペーンは「とりあえず試してみよう」と気軽に来店させる効果を生み、多くの新規顧客を獲得しました。

その一方、来店後は追加契約や上位プランへの誘導で顧客単価を上げる販売戦略を取り、リピーター向けのクーポン配布や物販併売で一人当たりの生涯売上を伸ばそうと努めていました。

派手なマーケティングで集客面では成功を収めましたが、広告費の増大は収益を圧迫し、2019年3月期には売上約393億円に対し最終赤字約20億円を計上するなど利益面では苦戦が続いていました。

競合他社との比較と業界全体の動向

相次ぐ大手サロンの退場

ミュゼプラチナムだけでなく、近年の脱毛サロン業界では大手チェーンの経営破綻や撤退が相次ぎました。例えば2022年には「脱毛ラボ」が倒産し、同年「キレイモ」も経営不振から事業譲渡、さらに2023年には「C3」や「銀座カラー」まで破産するなど、業界上位サロンが立て続けに消滅する異常事態となりました。

競争激化と前受金モデルの限界

大手各社の相次ぐ退場の根底には、顧客獲得競争の激化と、それに伴う前受金ビジネスモデルの限界がありました。特に2010年代後半から2020年代前半にかけてサロンは乱立状態となり、新規顧客を奪い合うため各社が大幅値引きキャンペーンや豪華な広告宣伝を競い合いました。その結果、広告宣伝費が売上の相当割合を占めるようになり、「今入会すれば◯◯%OFF」などの宣伝につられて将来の施術提供に必要な費用まで値引きして契約を取るケースが常態化しました。

こうした状況で前払い金を原資に目先の費用(広告・人件費・新店舗投資など)を賄う経営を続ければ、いずれ新規顧客の伸びが鈍化した際に行き詰まるのは避けられません。例えば銀座カラーでは2020年4月期に125.6億円の売上があったものの翌年100億円に減少して赤字に転じ、前受金約70億円を食いつぶして運営していたと指摘されています。このように「経営者を甘やかす前払い制度」による一種の自転車操業が、業界全体の構造問題として浮き彫りになったと言えます。

外部環境の変化

業界低迷には外的要因も影響しました。新型コロナ禍では繰り返し営業停止を余儀なくされ、固定費負担が重いサロン経営には大打撃となりました。

また感染リスクを嫌って自宅でのセルフケアを志向する消費者も増え、一時的に家庭用脱毛器の需要が伸びる現象もみられました。さらに、医療従事者による医療脱毛クリニックが全国展開を進め、少ない回数で効果を出せるメリットから支持を集めています。

この代替サービスへの需要シフトも、従来型サロンから顧客を奪う一因となりました。こうした市場環境の変化に十分適応できなかった企業は、前述のような内部要因と相まって経営危機に陥ったと考えられます。

ブランド価値と顧客ロイヤルティ

ミュゼプラチナムは業界最大手として強力なブランドイメージを築き、多くの女性から支持を集めてきました。広告戦略の成功で「脱毛と言えばミュゼ」と言われるほど知名度が高く、実際に長年通い続けるリピーターも多数存在し、高い顧客ロイヤルティを誇っていました。

しかし、そのロイヤルティは「安心して通い続けられる」という信頼の上に成り立っており、今回のようにサービス提供が途中で頓挫すれば一瞬で崩れてしまいます。前払いで契約したのに施術が受けられないとなれば、顧客の失望や怒りは避けられません。事実、破綻報道後はSNSにも「信じて契約したのに裏切られた」といった声があふれ、長年培ったブランド価値は一夜にして失墜してしまいました。

また、ミュゼの破綻は同時に業界全体のイメージ低下にもつながりかねません。最大手ですら倒れる状況に、消費者は「他も大丈夫か?」と不信感を強めています。こうしたブランド毀損の波及効果も踏まえ、企業は日頃から顧客との信頼関係を堅持し、盤石な経営でブランドを守る必要があると言えます。

消費者行動・心理の変化とその影響

需要自体は高まっているものの、消費者の選択肢や情報量が格段に増えたことで、その行動様式も変化しています。

SNSや口コミサイトでサロンの評判や経営状況が素早く共有されるようになり、怪しい噂が立ったサロンには新規申込みが急減するといった現象も生じています。

実際ミュゼでも、2015年頃に経営不安が報じられた際には解約希望者が殺到し経営悪化に拍車をかけた経緯があります。このように、現代の消費者は企業の健全性や信頼性に敏感であり、少しでも不安を感じれば契約をためらったり途中解約に踏み切る傾向が強まっています。

脱毛サロン各社の相次ぐ倒産を受け、消費者心理としては前払い契約に対し慎重になるムードが広がりつつあります。過去の他社トラブルで前払い契約のリスクは徐々に認知されつつあり、前払いエステ契約のリスクは以前より認知され始めました。

これに対し、最近では月額制プランや都度払いプランを用意するサロンも増え、消費者としても無理のない範囲で支払いつつサービスを試す動きがみられます。医療脱毛クリニックでも分割払いや都度払いが一般化し、高額な一括払いをしなくても通える選択肢が整ってきました。こうした環境変化は、企業にとっては従来の前受金モデルからの転換を迫られる要因であり、消費者にとってはリスクを抑えながら脱毛サービスを利用できる方向へと流れを変えつつあります。

「安さ」だけでは動かない消費者

ミュゼをはじめサロン各社が長年競ってきた「業界最安値」のキャッチコピーも、度重なるトラブルを経て以前ほど魅力的に響かなくなってきました。消費者は単に価格が安いかどうか以上に、「最後までちゃんとサービスを提供してくれるか」「経営は大丈夫か」という点を重視するようになってきています。もちろんお得感は依然重要ですが、それ以上に「本当に安心できるか?」という視点で事業者を選ぶ傾向が強まっているのです。

このため、今後企業側は経営の信頼性を可視化する工夫(例えば財務情報の積極開示や供託金制度の導入検討)を進め、消費者に「安心料」を提供する姿勢が求められるでしょう。

今後の教訓と示唆(企業側・消費者側)

企業にとっての教訓

前受金ビジネスでは預かった資金は顧客への債務であることを強く認識し、安易に使い込まない財務健全性が求められます。契約分のサービスを提供し終えるまで資金をプールしておく、あるいは信託保全するなどの対策が必要と思われます。

また、成長優先で広告や出店に過剰投資せず、売上減少期でも耐えられる堅実な経営を心がけるべきです。経営環境の変化に備え、無理のない費用構造と内部留保を確保し、万一不測の事態が起きても従業員や顧客への責任を果たせる体制を整えることが重要です。そして何より、日頃から誠実な経営で顧客と従業員の信頼を裏切らないことが、ブランドを守り長期的に事業を存続させる唯一の道と言えます。

消費者にとっての教訓

私たち利用者側も、安価な前払いプランにはリスクが伴うことを再認識する必要がありそうです。大幅割引の謳い文句に飛びつく前に、その企業の信頼性や過去の実績に目を配り、高額の一括払い契約は慎重に検討すべきです。可能であれば月額払いや都度払いを選択する、クレジットカード払いにして万一の場合の補償を受けやすくするといった自衛策も考えられます。

また、「今契約しないと損」といった営業トークに惑わされず、自分に本当に必要な契約かどうか冷静に判断する姿勢も大切です。万一トラブルに遭った際は、一人で抱え込まず消費生活センター等に相談することで被害拡大を防ぐこともできます。こうした賢い消費行動が、結果的に健全な企業だけが生き残る市場環境につながっていくと考えられます。

スポンサーリンク
MarketingNews
著者SNS
タイトルとURLをコピーしました