「Copilot Studio」という名前は聞いたことがあっても、実際にどんな企業がどう使っているのかまでは知らない、という方も多いのではないでしょうか。Microsoft Copilot Studioは、プログラミング知識がなくてもドラッグ&ドロップの操作でAIエージェントやチャットボットを構築できる、Microsoftのローコード生成AIプラットフォームです。2026年に入り、その導入企業数は230,000組織を超えたと報告されており、社内ヘルプデスクから顧客対応、金融機関の窓口業務まで、活用の幅は着実に広がっています。
本記事では、業種も規模も異なる3社の実例を通じて、Copilot Studioがどのような課題を解決し、どのような成果を上げているのかをご紹介します。エンジニアの方には技術的なアーキテクチャの参考として、経営層や事業責任者の方には投資判断の材料として、それぞれお役立ていただける内容を目指しました。
Copilot Studioとは|あらためて基本をおさらい
Copilot Studioは、Microsoft 365やAzureの各種サービスと連携しながら、対話型のAIエージェントを構築・運用できるプラットフォームです。従来のチャットボット開発では、想定される質問と回答をひとつひとつ登録していく必要がありましたが、Copilot Studioでは既存のドキュメントやポータルサイトなどを「知識ソース」として指定するだけで、生成AIが自動的に回答を組み立ててくれます。
「作る」から「本番で動かす」へ
近年のアップデートでは、単一のエージェントが全ての質問に答える形式から、複数の専門エージェントが役割分担して対応する「マルチエージェントオーケストレーション」への進化が進んでいます。以下では、実際にこの仕組みを取り入れた企業の事例も紹介します。
事例1|コニカミノルタ株式会社|利用者1万人規模の社内ヘルプデスクを刷新
課題:手動メンテナンスが負担だった旧チャットボット
コニカミノルタでは2018年から、国内グループ会社共通の社内ITサービス問い合わせ窓口としてチャットボット「リテラ」を運用してきました。しかし、専用の回答データベースを手動で整備する必要があり、情報更新にタイムラグが生じるほか、一問一答形式のため複数の情報にまたがる質問には対応できないという限界がありました。基盤としていたAzureのQ&A Makerサービスの終了をきっかけに、Copilot Studioへの刷新が決断されました。
解決策:既存の社内ポータルをそのまま知識ソースに
新しい「リテラ」では、専用データベースを持たず、社内ポータルに既に存在するFAQやマニュアルを直接、知識ソースとして活用しています。情報が不足している場合は、AIエージェントが自動で有人窓口へメール問い合わせを行う仕組みも備えており、Dataverse・Power BIと連携して利用状況をレポートで可視化することで、継続的な改善にもつなげています。
成果:半年で3.6人月の対応工数を削減
導入から半年間で約2,500件の質問に対応し、有人対応工数を3.6人月削減しました。社内ポータルの更新が1日以内に自動反映されるようになったことで、IT部門のメンテナンス負荷は部署によって従来の50%まで軽減されています。
事例2|Microsoft自身の活用事例|Webサイトの問い合わせ対応を自動化
課題:サイト規模の拡大で応答が遅くなった
Microsoftは自社サイト「microsoft.com」上で、Copilot Studioを使った「Ask Microsoft」というWebエージェントを運用しています。当初は好調でしたが、サイトのコンテンツとトラフィックが拡大するにつれ、応答に時間がかかるという課題が浮上しました。
解決策:マルチエージェントによる役割分担
そこでMicrosoftは、ひとつのエージェントがサイト全体をカバーする方式から、Azureや Microsoft 365、価格ページなど、領域ごとに特化した「子エージェント」が連携して対応する構成へと刷新しました。あわせて、固定的なトピックフローから、生成AIによる動的な応答生成(Generative Orchestration)を採用し、より自然な複数ターンの会話にも対応できるようにしています。
成果:応答遅延61%減、有人対応70%減
刷新後のエージェントは、応答遅延を最大61%削減し、有人対応へのエスカレーションを最大70%削減しました。さらに、このエージェントと対話した顧客は、サービスへの申し込みに進む確率が10倍に高まったと報告されています。
事例3|Rabobank(オランダ)|銀行窓口をAIエージェントで支える
課題:チャットと音声で別々のシステムを運用していた非効率
オランダの大手金融機関Rabobankは、それまでチャットと音声で別々のプラットフォームを運用しており、同じ内容の会話ロジックであっても、両方を個別に更新する必要がありました。開発には専門のベンダー支援が必要で、市場投入までのスピードにも課題を抱えていました。
解決策:3種類のエージェントで音声とテキストを一元管理
Rabobankは、音声対応エージェント1種類とテキスト対応エージェント2種類を、いずれもCopilot Studio上に構築しました。既存のコンタクトセンターシステムとは標準連携がなかったため、独自のミドルウェアを開発して橋渡しをしています。また、金融機関特有の厳格なコンプライアンス要件を踏まえ、生成AI機能は自社のAzureサブスクリプション内で管理する設計を採用している点も特徴的です。
成果:1日2万件の電話、チャットの自己解決率62%
移行後は1日あたり2万件の電話、7千件のチャットに対応しており、チャットの62%は有人対応にエスカレーションすることなく自己解決できています。ベンダー任せだった運用も、社内で仕組みを管理・改善できる体制へと変わりました。
3社の事例から見える、導入を成功させる共通のポイント
「専用データベースを作らない」設計が運用負荷を下げる
コニカミノルタの事例が象徴的ですが、既存の社内資産(ポータル、FAQ、マニュアル)をそのまま知識ソースとして活用する設計は、情報の鮮度を保ちながら運用負荷を抑える有効な手段です。
「まず小さく作って、あとから拡張する」進め方
Microsoftの事例のように、まず単一のシンプルなエージェントで始め、成果を確認しながら段階的にマルチエージェント構成へ拡張していくアプローチは、リスクを抑えつつ成果を出す進め方として参考になります。
業種特有の制約に向き合う設計力が問われる
Rabobankのように、規制の厳しい業界では「生成AI機能をそのまま使う」のではなく、コンプライアンス要件に合わせて実装をカスタマイズする判断が必要になります。こうした、現場の制約と技術をすり合わせながら実装を進める役割は、近年注目されているFDE(Forward Deployed Engineer)的な動き方とも重なる部分があります。
まとめ|自社での導入を検討する際の次のステップ
Copilot Studioの導入事例を3つ見てきましたが、共通しているのは「既存の資産を活かしながら、小さく始めて実績を積み上げる」という進め方です。社内ヘルプデスクのような比較的着手しやすい領域から始め、成果を確認しながら顧客対応や業務プロセスへと広げていくのが、無理のない導入ルートと言えそうです。
なお、Copilot StudioはAIエージェント構築のプラットフォームであり、コード開発を支援するGitHub Copilotとは役割が異なります。両者の違いや、GitHub Copilotの国内企業での活用状況については、別記事「日本企業におけるGitHub Copilot活用事例|生産性向上の最前線」でも詳しく紹介していますので、あわせてご覧ください。
参考サイト
- Microsoft Learn「Copilot Studio real-world transformation stories」
- Microsoft Customer Stories「Microsoft uses Copilot Studio to reshape customer experience and drive higher engagement」
- Microsoft Learn「Rabobank embraces conversational banking with Copilot Studio」
- コムチュア株式会社「【Copilot Studio導入事例】コニカミノルタ株式会社様」