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金融庁によるステーブルコイン「JPYC」正式承認が企業活動・マーケティングにもたらす影響

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金融庁(Financial Services Agency)は2025年8月、JPYC株式会社による日本円連動型ステーブルコイン「JPYC」の発行を国内で初めて正式に承認しました。

これは、改正資金決済法(2023年6月施行)に基づく初の円建てステーブルコイン事例であり、法制度の下で認められたデジタル円の誕生を意味します。

JPYCは1JPYC=1円の価値を持つよう銀行預金や国債を裏付け資産として保有し、価値の安定を図ります。その用途は国際送金や企業間決済、分散型金融(DeFi)など多岐にわたり、今後3年間で総額1兆円規模の発行を目指すと報じられています。

本記事では、この歴史的なステーブルコイン承認が金融・決済業界から観光産業、スタートアップやマーケティング領域に至るまで、企業活動とマーケティング戦略にどのような影響を及ぼすかをまとめてみます。

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金融・決済業界:利便性向上と競争環境の変化

JPYCの正式承認はまず、金融・決済業界に大きな革新をもたらす可能性があります。ステーブルコインJPYCはブロックチェーン上で稼働するデジタル円であり、24時間365日の即時送金数秒での着金低コスト送金といった従来にない利便性を提供します。

銀行の振込サービスやクレジットカード決済と比べても、送金手数料や決済手数料が格段に安く、リアルタイム送金が可能な点で優位性があると考えられます。

例えばJPYC社は「ほぼ0円の送金・決済手数料」を掲げており、既存の決済ネットワークより費用負担を大幅に抑えられる見込みです。(prtimes.jp

こうした利便性向上により、競争環境にも変化が生じるでしょう。メガバンクをはじめとする大手金融機関も自社の円建てコイン発行を準備しており、三菱UFJ信託銀行の「Progmat Coin」など複数のプロジェクトが進行中です。

JPYCの承認は国内ステーブルコイン市場拡大の号砲となり、金融各社による新たなデジタル通貨サービス参入が加速する可能性があります。

一方、従来の決済事業者や電子マネー業者にとっては、新たな競合の出現と言えます。クレジットカード会社やQRコード決済(スマホ決済)事業者は、手数料の低さ即時決済といった強みを持つステーブルコイン決済に対抗するため、サービス改善や手数料引き下げ、あるいはステーブルコインとの連携を検討せざるを得なくなると考えられます。

JPYCの送金上限は資金移動業法上1件あたり100万円(第二種資金移動業)に制限されますが、日常的な小口決済や個人間送金には十分な額であり、既存の銀行送金や国内送金サービスと競合し得る場面が多く生まれると考えられます。

さらに、日本国内に限らず国際送金の分野でも競争環境が変化し得ます。JPYCは米ドル建てステーブルコイン(USDCなど)との相互交換性が高く、極めて低コストで相互に交換できるとされています。

これにより、例えば日本企業が海外送金を行う際に、JPYCをUSDC等に安価に両替して送金するといった手段が現実味を帯びます。従来のSWIFTを介した国際送金よりも速く安い送金が可能となれば、銀行の国際送金サービスや既存の送金事業者にとって脅威となり得ます。

同時に、資金決済法の枠内で発行され信頼性が高い円ステーブルコインは、暗号資産市場において円建て資産としての地位を確立し、世界規模で拡大するステーブルコイン市場(※2024年時点で時価総額約30兆円)において日本発の通貨として存在感を示す可能性もあります。

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Eコマースへの導入可能性と販促への影響

オンライン通販(Eコマース)業界もJPYCの登場による恩恵と変化が期待されます。ECサイトへのステーブルコイン決済導入が現実的な選択肢となり、JPYC社自身もECサイトでの活用展開を予定していると発表しています(prtimes.jp)。

消費者がネットショッピングでJPYCを支払い手段に利用できるようになれば、決済手数料の削減や決済スピードの向上によって、よりスムーズで安価な購買体験を提供できるでしょう。

クレジットカード決済では加盟店手数料(3〜5%程度)が店舗側に課されますが、JPYCによる決済ではこれら手数料が極めて低く抑えられるため、加盟店のコスト負担軽減につながります。

店舗側が節約できた手数料分を価格還元やポイント上乗せといった形で顧客に還元すれば、マーケティング施策としても有効に機能する可能性があります。

たとえば「JPYC決済なら○%オフ」「ステーブルコイン決済でキャッシュバック」といったキャンペーンは、利用者の関心を引きつけキャッシュレス決済の促進につながるでしょう。

また、JPYCの導入は越境EC(クロスボーダー電子商取引)を後押しすると期待されます。

海外の顧客にとって、日本円への両替手続きや為替手数料は購買ハードルの一つですが、JPYCであればドルやユーロ建てのステーブルコインと即座に交換できるため、海外消費者が円建て価格の商品を購入する際の手間が大幅に省けます。

たとえば、米国のユーザーがUSDC(1ドル連動)を保有していれば、それを自分のスマートフォン上でJPYCに低コストで交換し、そのJPYCで日本のECサイトの商品を決済するといったことが可能になります。

店舗側は受け取ったJPYCを即座に円に換金できるため、為替変動リスクも負いません。これにより、日本のEC事業者は海外顧客層の開拓が容易になり、インバウンド消費(訪日せずとも日本の商品やサービスを購入する形態を含む)の拡大が見込まれます。

さらに、不正リスクの低減も販促上のメリットと言えます。ブロックチェーン上のステーブルコイン決済は取引が不可逆であるため、クレジットカード払いに伴うチャージバック(不正利用時の払い戻し)リスクがありません。

これはデジタルコンテンツ販売など、不正返金が課題となりやすい業態にとって魅力的です。安全で低コストな決済手段としてJPYCを導入すること自体が宣伝材料となり、「最新の決済手段を導入する先進的なEC企業」というブランドイメージ向上にもつながると考えられます。

以上のように、Eコマース分野では決済コスト削減による収益性向上新規顧客の獲得、そしてそれらを活かした販促戦略の展開が期待できます。

観光・インバウンド市場への効果

訪日観光市場にもJPYCの影響が及ぶと考えられます。2024年には日本を訪れた外国人旅行者数が約3,600万人に達し、多くの訪日客が既に母国で暗号資産やステーブルコインに親しんでいます。JPYCの普及により、外国人観光客の決済体験が飛躍的に向上する可能性があります。

従来、訪日旅行者は現金を両替するかクレジットカードを使用する必要がありました。しかしステーブルコイン決済が解禁され普及すれば、旅行者は自国通貨建てのステーブルコイン(例えばドル連動のUSDTやUSDCなど)からJPYCへの交換をスマートフォン上で完結できるようになります。

その結果、現金を持ち歩く必要がなくなり、為替の両替手数料や手間も不要になります。店舗側も特別な対応をせずにJPYCでの支払いを受け取れるため、観光地の土産物店や飲食店など中小の事業者でも導入ハードルは低いでしょう。

TIS株式会社などはスマホやタブレットで直接ステーブルコインを受け取れる決済アプリの開発を進めており、専用端末なしで店頭導入が可能なサービスも登場しつつあります。これらの流れが進めば、インバウンド消費の増加旅行者満足度の向上に寄与すると期待されます。

また、JPYCの存在は訪日客向けマーケティングにも新たな余地を生みます。

例えば観光業界では「Crypto Friendly(暗号資産歓迎)」を打ち出すことで、新たな客層の誘致が可能です。具体的には、「JPYCで支払い可」と掲げるホテルや店舗、交通機関が増えれば、暗号資産ユーザーである訪日客にとって日本での滞在が便利で魅力的になります。

旅行前にJPYCを入手しておけば、日本国内で円を引き出す必要なくスムーズに決済できるといった情報発信は、旅行代理店や観光プロモーションにおいて強力なセールスポイントとなるでしょう。

さらに、地域振興の観点では、地方自治体や観光地が独自のデジタル通貨を発行する代わりにJPYCを活用することで、外国人を含む幅広い旅行者に受け入れられやすい決済手段を提供できるというメリットもあります。

以上のように、観光・インバウンド市場では、ステーブルコインの導入が旅行者の利便性向上と消費喚起につながり、日本の観光産業の国際競争力を高める可能性があります。

スタートアップやWeb3プロジェクトでの活用可能性

JPYCのような円建てステーブルコインの登場は、日本のスタートアップ企業やWeb3プロジェクトにも大きなチャンスを提供します。まず、ブロックチェーン・暗号資産領域のプロジェクトにとっては、安定した円建てのデジタル通貨が利用可能になる意義は大きいです。

これまでNFTマーケットプレイスやブロックチェーンゲームでは、決済に暗号資産(多くはイーサリアムやドル連動ステーブルコイン)が使われてきました。

しかし為替変動や税制上の扱いの問題から、日本人ユーザーにとってハードルが高い面もありました。JPYCが正式に承認され広く流通すれば、NFT取引やメタバース内経済圏でも円建て決済が可能となり、ユーザーは為替レートを気にせず安心して取引できるようになります。

安定した円による決済は国内のWeb3サービス利用を促し、日本発のブロックチェーンビジネスの拡大に追い風となると考えられます。

また、暗号資産領域以外のスタートアップにとってもJPYCは有用です。フィンテック系のスタートアップはJPYCを組み込むことで、新たな送金・決済サービスを迅速に展開できます。

例えば、個人間送金アプリでJPYCを送受金手段にすれば、銀行口座を持たない若年層同士でもスマホ間で即時に円のやり取りが可能になります。海外との資金やり取りが必要なビジネス(輸出入取引、新興国への送金サービス等)では、JPYCと他国のステーブルコイン交換を活用することで低コスト且つ高速なクロスボーダー送金ソリューションを提供できると考えられます。

加えて、スタートアップ企業自身の資金調達や経理面でも変化が考えられます。

グローバルに事業を展開する企業であれば、海外の投資家からJPYC建てで出資を受け、そのまま円建てで事業に使うといった資金調達のスキームも可能となります(為替手数料の節約や即時決済による資金繰り効率化)。

また、従業員や外部委託先への支払いにもJPYCが活用できます。JPYC社はステーブルコインの特徴を活かし、報酬の「日払い」ならぬ「午前・午後払い」や「1時間毎の即時支払い」といった柔軟な報酬支払いも技術的に可能になると提言しています。

ギグエコノミーリモートワークが広がる中、業務完了のタイミングで即時にJPYC払いするような仕組みは、フリーランス支援サービスや人材系スタートアップにとって魅力的な機能となり得ます。

さらに、JPYCは様々な分野のスタートアップ間で共通のプラットフォーム通貨として機能し得ます。たとえばあるサービスで得たJPYCを別のサービスで使う、という連携が容易になるためです。

従来は各社が独自のポイントや電子マネーを発行していましたが、法定通貨と等価のJPYCであれば相互運用性が高く、異なるプラットフォーム間での価値移転コストが下がります。これはエコシステム全体の活性化につながり、新サービス創出を促進するでしょう。

総じて、JPYCの正式承認はスタートアップやWeb3領域にイノベーションの土台を提供し、日本発のユニークなサービスやビジネスモデルが生まれる契機となる可能性があります。

消費者エンゲージメント向上やブランド戦略への応用

JPYCの活用は、企業のマーケティングやブランド戦略にも新しいアプローチをもたらします。消費者エンゲージメントの向上という観点では、企業が顧客との関係性を深めるためのツールとしてのステーブルコインの利用を検討できます。

例えば、従来のポイントプログラムに代わり、購入額の一部をJPYCでキャッシュバックする仕組みを導入すれば、顧客はそのJPYCを他の店舗やオンラインサービスでも利用できるため、従来の自社ポイントよりも汎用性が高く魅力的です。

JPYCは1円と等価であるため心理的にも受け入れられやすく、「本物のお金」に近いロイヤリティプログラムを設計できる点が強みです。企業側にとってはポイント発行に伴う債務計上の負担が軽減され、ブロックチェーン上で履歴管理できることで不正利用防止やデータ分析にも役立ちます。

また、JPYCを活用したプロモーション施策も考えられます。

新商品のトライアルキャンペーンで一定額のJPYCを配布し、自社ECサイトでの購入に使ってもらう、イベント参加者にJPYCのエアドロップ(デジタル配布)を行い次回購入に充当できるクーポン的に使う、といったアイデアです。

受け取ったJPYCは自社だけでなく他社サービスでも使えるため消費者に喜ばれやすく、結果としてキャンペーンへの参加率向上やSNS上での話題喚起につながるでしょう。特にデジタル世代の若年層や暗号資産リテラシーの高い層に対しては、「お金」で直接インセンティブを提供する形になるJPYC施策は強い訴求力を持つはずです。

ブランド戦略面でも、JPYCの承認・活用は企業イメージの向上に寄与し得ます。JPYCをいち早く受け入れたり活用したりする企業は、技術トレンドに敏感で革新的な企業として評価されるでしょう。例えば小売業や飲食業で「JPYC決済始めました」とアピールすることは、新しもの好きの顧客層の興味を引きつけ、他社との差別化要因となります。

金融業界以外でも、先進技術への積極姿勢を示すことはブランド価値の向上につながります。さらに、自社独自のステーブルコインを発行する動きも将来的には考えられますが、現行法では銀行等に限られるため、多くの企業はまずJPYCのような公認ステーブルコインとの提携や活用を模索すると考えられます。

例えば大手流通企業がJPYCを活用したデジタル地域通貨キャンペーンを実施したり、ゲーム会社がJPYCをゲーム内通貨と連動した形で報酬として配布するなど、ブランドとステーブルコインを組み合わせた創造的な企画も期待できます。

こうした取り組みは消費者との新たな接点を生み、エンゲージメントを高めると同時に、自社ブランドを時代の最先端に位置づける効果をもたらすでしょう。

法的・制度的な制約と今後の課題

JPYCの正式承認に至る背景には、2023年改正資金決済法によるステーブルコインの法整備があります。同法により、ステーブルコインは「電子決済手段」と位置付けられ、発行主体は信頼性の高い銀行や資金移動業者等に限定されました。

この枠組みの下、JPYC株式会社は資金移動業(第二種)および電子決済手段等取引業のライセンス取得を進め、法令順守の体制を整えています。もっとも、今後の普及に際しては法的・制度的な課題もいくつか指摘されています。

第一に、マネーロンダリング対策(AML)の徹底が求められます。法制度上ステーブルコイン発行体や交換業者には厳格な本人確認(KYC)や不正取引モニタリングが義務付けられており、安全性と利便性の両立が課題です。

ユーザーにとっては口座開設時の手続き負担が増える可能性がありますが、これは信頼性を高めるために不可欠なステップです。企業側は利用者に対しこのプロセスを分かりやすく案内し、スムーズにオンボーディングできる仕組みを準備する必要があります。

第二に、国際競争力と標準化の課題があります。現状、世界のステーブルコイン市場は米ドル建てのUSDTやUSDCが主流であり、グローバル取引において円建てステーブルコインがどこまで存在感を示せるかは未知数です。

日本国内では円建てステーブルコインの需要が高くとも、海外ではドル建ての方が好まれるケースも多いでしょう。このため、日本発のステーブルコインを国際標準の一角に食い込ませるためには、他国の規制当局との協調や相互承認の枠組みづくり、あるいはクロスチェーンでの互換性確保など技術面での取り組みも重要となります。

JPYC社は既にCircle社(USDC発行元)など海外大手とも提携関係を築いており、今後はこうした連携を通じてグローバルなステーブルコイン・ネットワークの中で円建て通貨の地位向上を図ることが期待されます。

第三に、ユーザー理解と普及啓発の課題です。

技術的に優れていても、一般ユーザーにその利便性と安全性が理解され、日常生活に根付かなければ広範な普及は実現しません。特に高齢層など従来の現金主義が根強い層に対し、デジタル通貨の利便性をどう伝えるかは大きなチャレンジです。

企業や政府は、キャッシュレス推進の一環としてステーブルコインのメリット(例えば「送金が瞬時に終わる」「両替不要で海外でも使える」等)を丁寧に周知し、実際に触れてもらう取り組みが必要でしょう。実証実験や地域通貨プロジェクトでJPYCを使った試みを重ね、成功事例を示すことも効果的です。

また、ユーザー保護の観点では、万一秘密鍵を紛失した場合の救済策や、不正送金時の対応フローなど、従来の銀行にはあるセーフティネットをどのように整備するかも検討課題と言えます。

最後に、制度面での今後の展望としては、さらなる規制緩和や制度整備の可能性が挙げられます。例えば現行では資金移動業の第二種ライセンスで1回あたり100万円までの送金上限がありますが、この上限引き上げや、第一種ライセンスによる無制限の送金枠でのステーブルコイン発行も将来には検討されると考えられます。

給与のデジタルマネー払いについても現在は一部容認の方向で議論が進んでおり、JPYCのような電子決済手段で給与支給が可能になれば、企業の経費精算や給与管理にも変革が起きる可能性があります。規制当局としてはイノベーション促進と利用者保護のバランスを取りながら、ルールの微調整を行っていくことが求められます。

まとめ

JPYCの金融庁承認は、日本におけるデジタル通貨の歴史において画期的な転換点と位置付けられます。既存のJPYCトークンが「法に裏付けられた本物の円建てステーブルコイン」に格上げされた意義は大きく、安全性と信頼性が公的に担保されたことで企業や消費者も安心して利用できる土壌が整いました。この動きを皮切りに、送金・決済だけでなくWeb3領域や国際取引など様々な分野へデジタル円の活用が広がっていく可能性があります。

JPYC社自身、今後数年間で1兆円規模の流通を目指すと述べており、多くの企業・自治体・プロジェクトがこの新たなインフラ上でサービス展開を図るでしょう。

もっとも、新技術の定着には時間と課題解決が必要です。法律面での整備は進んだものの、競争環境の変化や国際的な地位確立、そして利用者への周知徹底といった課題にも継続的に取り組む必要があります。企業活動やマーケティング手法もデジタル通貨時代に合わせて変革していくことが予想され、JPYC承認を契機に日本経済全体がキャッシュレス・デジタルシフトを加速させる展開が期待されます。

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