生成AIを使った業務エージェントを社内に導入しようとしたとき、多くの企業担当者が最初にぶつかるのが「Copilot StudioとMicrosoft Foundry、結局どちらを使えばいいのか」という疑問です。両者はどちらもMicrosoftが提供するAIエージェント構築プラットフォームですが、対象ユーザーも開発方法もまったく異なります。さらに2026年5月のMicrosoft Build 2026で、これまで「Azure AI Foundry」と呼ばれていたサービスが「Microsoft Foundry」へと名称変更されたため、情報が混在し、余計にわかりにくくなっています。
この記事を読むと、次のことがわかります。
- Azure AI FoundryがMicrosoft Foundryに変わった経緯と、何が変わったのか
- Copilot StudioとMicrosoft Foundryの機能・対象ユーザー・料金の違い
- 自社がどちらを選ぶべきか判断するための具体的な基準
- 実際には多くの企業が両者を「併用」している理由
結論から言うと、業務部門がスピード重視で社内アシスタントを作るならCopilot Studio、開発チームが本番システムに組み込む高度なAIエージェントを構築するならMicrosoft Foundryが適しています。そして多くの大企業では、この2つを排他的に選ぶのではなく、組み合わせて使うケースが増えています。以下で詳しく見ていきましょう。
Azure AI FoundryがMicrosoft Foundryに名称変更。何が変わったのか
Microsoftのプロコード向けAI開発プラットフォームは、これまで複数回名称が変わっています。もともと「Azure AI Studio」として提供されていたサービスが2024年11月に「Azure AI Foundry」へ改称され、さらに2026年5月のMicrosoft Build 2026にて「Microsoft Foundry」へと再びブランドが統一されました。
単なる名前の変更にとどまらず、Microsoft Learnの公式ドキュメントによれば、以下の点が刷新されています。
- ポータル:従来の「Foundry(クラシック)」から新しい「Foundry」ポータルへ移行
- エージェントAPI:Assistants API(Agents v0.5/v1)からResponses API(Agents v2)へ
- リソースモデル:ハブ+Azure OpenAI+Azure AIサービスの組み合わせから、単一のFoundryリソースに統合
- SDK:複数パッケージに分かれていたSDKが、統一されたプロジェクトクライアント(azure-ai-projects 2.x)に集約
- 構成:Foundry Models、Foundry Agent Service、Foundry IQ、Foundry Toolsの4層構成に整理
この名称変更でややこしいのは、検索エンジンやブログ記事、さらには社内資料の中に「Azure AI Foundry」という旧名称がまだ大量に残っている点です。2026年9月時点でも、Microsoft公式のコミュニティブログでさえ新旧の名称が混在して使われており、これから情報収集する担当者は「Azure AI Foundry」と「Microsoft Foundry」が同じものであると理解した上で情報を読み解く必要があります。本記事では原則として現行名称の「Microsoft Foundry」で統一して解説します。
Copilot Studioとは
Copilot Studioは、業務部門の担当者やIT管理者がノーコード・ローコードでAIエージェント(Copilot)を構築できるMicrosoftのSaaS型プラットフォームです。もとは「Power Virtual Agents」という対話ボット構築ツールでしたが、生成AIの機能を組み込む形で進化し、現在の名称になりました。
主な特徴は次のとおりです。
- ドラッグ&ドロップと自然言語指示で、プログラミング知識がなくてもエージェントを構築できる
- SharePointや社内マニュアル、Webサイトなどを指定するだけで、自社データに基づいて回答するRAG構成を数分で作成できる
- Power Automateと連携し、休暇申請の提出や社内システムへの入力といった業務プロセスを自動化できる
- Teams、Outlook、Webサイトなど複数のチャネルへそのまま展開できる
想定される利用者は、人事・総務・情シスなどの業務部門担当者や、シチズンデベロッパーと呼ばれる非エンジニアの現場担当者です。社内ヘルプデスクや顧客向けFAQ対応など、比較的定型的で低リスクなユースケースに向いています。
Microsoft Foundryとは
Microsoft Foundryは、開発者やデータサイエンティストが本格的な生成AIアプリケーションやAIエージェントを設計・構築・評価・運用するための統合プロコードプラットフォームです。Microsoft Learnの説明によれば、Microsoft、OpenAI、Anthropic、Metaなど1,900を超えるモデルにアクセスできるモデルカタログ、エージェントを拡張するツール・知識カタログ、そしてトレース・監視・評価を行う可観測性機能などを備えています。
主な特徴は次のとおりです。
- OpenAIのGPTシリーズだけでなく、Anthropic、Meta、Microsoft独自の軽量モデル「Phi」など幅広いモデルから用途・コストに応じて選択できる
- 数百万件規模の文書や複雑な社内データベースを対象にした高度な検索・RAG基盤を構築できる
- 「質問受付→データベース検索→コードによる処理→AI回答生成」のような複雑な処理パイプラインを視覚的なツールとコードの組み合わせで設計できる
- Microsoft Entra IDによるロールベースアクセス制御、コンテンツフィルター、ネットワーク分離など、金融機関や政府機関でも通用する厳格なセキュリティ要件に対応できる
想定される利用者は、開発者・AIエンジニア・データサイエンティストです。自社製品へのAI機能組み込みや、複数システムを横断して業務を遂行する自律型AIエージェント、専門分野に特化したファインチューニング済みAIなど、本番運用を前提とした高度な開発に向いています。なお、Foundry Agent Serviceを通じて自作コードを実行する「ホスト型エージェント」は2026年3月に一般提供(GA)となっており、独自ロジックを組み込んだエージェントの本番運用にも対応しています。
Copilot StudioとMicrosoft Foundryの比較表
| 比較項目 | Copilot Studio | Microsoft Foundry |
|---|---|---|
| 一言で言うと | 手軽にAIアシスタントを作るローコードツール | AIエージェント・アプリを本格開発するプロコード基盤 |
| 主な利用者 | 業務部門担当者、IT管理者、シチズンデベロッパー | 開発者、データサイエンティスト、AIエンジニア |
| 必要なITスキル | プログラミング不要(自然言語・GUI操作) | プログラミング必須(Python、C#、SDKなど) |
| プラットフォーム形態 | SaaS(Microsoftが管理) | PaaS(Azureサブスクリプション内で自己管理) |
| モデルの選択肢 | Microsoft管理下の生成AIモデルを利用 | 1,900以上のモデルカタログから選択可能 |
| 主な展開先 | Teams、Outlook、Web、SharePoint | API、Functions、コンテナ、独自アプリ |
| 料金体系 | 2026年8月GA済みのクレジット課金制 | Azureの従量課金(モデル利用料+インフラ費用) |
| 得意な領域 | 定型的な社内外の問い合わせ対応、業務自動化 | 複雑なRAG、マルチシステム連携、専門特化AI |
Copilot Studioは2026年8月末に新しい料金体系がGAとなり、クレジット課金制へ移行しています。この変更点については別記事「新しいCopilot Studio|GitHub Copilotハーネスは「作成段階から課金」の新体系に【2026年8月】」で詳しく解説していますので、料金設計を検討する際はあわせてご確認ください。
どちらを選ぶべきか。判断基準を整理する
実際の導入検討では、次の3つの観点で考えると判断しやすくなります。
1. 開発の主体は誰か
エージェントを作る人が業務部門の担当者であればCopilot Studio、専任の開発チームであればMicrosoft Foundryが基本線です。Copilot Studioは「現場が自分たちで作って改善する」ことを前提に設計されており、Microsoft Foundryは「エンジニアが要件定義からテスト、デプロイまでを行う」ことを前提にしています。
2. 求められる精度と一貫性のレベル
社内向けの議事録要約や資料検索のように、多少の揺らぎがあっても許容できる用途であれば、速度と手軽さを優先してCopilot Studioで十分です。一方、顧客対応や財務・コンプライアンスに関わる判断など、出力の正確性やテスト・評価プロセスが求められる用途では、Microsoft Foundryの評価・監視機能が必要になります。
3. データ連携の複雑さ
SharePointや簡単なWebサイトの情報を参照する程度であればCopilot StudioのRAG機能で足ります。しかし、数百万件規模の文書や複数の社内データベース、SQLベースの基幹システムなどを横断的に検索・統合する必要がある場合は、Microsoft Foundryでなければ実現が難しくなります。
これらを踏まえると、次のように整理できます。
- 社内ヘルプデスク、FAQ対応、簡単な業務自動化 → Copilot Studio
- 自社製品へのAI機能組み込み、自律型のマルチステップエージェント → Microsoft Foundry
- 専門領域(医療・金融・法務など)に特化したファインチューニング済みAI → Microsoft Foundry
- 業務部門主導で数日〜数週間のスピードで試したい → Copilot Studio
企業導入時に注意すべきポイント
ガバナンスとセキュリティ
Copilot Studioで作成したエージェントも、Microsoft Entra Agent IDによる管理が2026年8月から必須化されており、野良エージェントの乱立を防ぐガバナンス強化が進んでいます。この変更の詳細は「Copilot StudioのMicrosoft Entra Agent ID自動生成が必須化【2026年8月】」の記事で解説していますので、既にCopilot Studioを利用中の企業は対応状況を確認しておくことをおすすめします。Microsoft Foundry側もEntra ID、ロールベースアクセス制御、ネットワーク分離といった機能が用意されていますが、こちらは開発チームが自ら設計・実装する必要があります。
コストの考え方
Copilot Studioは初期の開発コストを抑えられる一方、利用量が増えるとクレジット消費が積み上がっていきます。Microsoft Foundryは開発・テスト・監視への投資が先行しますが、複雑な要件を一度作り込んでしまえば、シンプルな実装をあとから作り直すよりトータルコストを抑えられるケースがあります。どちらが安いかではなく、「求める信頼性のレベルに対して適切な投資かどうか」で判断することが重要です。
両者を併用するハイブリッド戦略
Microsoft自身も、Copilot StudioとMicrosoft Foundryを「どちらか一方を選ぶもの」ではなく「AIソリューションスタックの補完的なレイヤー」として位置づけています。実際に海外の導入支援企業も、多くの組織が最終的には両方を併用すると指摘しています。
典型的なパターンは、業務部門向けの窓口としてCopilot Studioで対話インターフェースを提供しつつ、その裏側の複雑な処理やモデル選定、評価、監視をMicrosoft Foundryが担うという構成です。たとえば、Teams上でCopilot Studioのエージェントが社員からの質問を受け付け、複雑な分析や複数システムへのアクセスが必要な部分だけMicrosoft Foundryで構築したエージェントに処理を委譲する、といった設計です。
この考え方は、Microsoftの生成AIツール群をどう使い分けるかを整理した「Copilot StudioとCopilot Coworkの違いと使い分け|Microsoft AIツール比較」とも共通しています。Microsoftの生成AI製品群は単体で完結させるのではなく、目的ごとに適材適所で組み合わせることが前提になっているのです。
よくある疑問
Q. Azure AI FoundryとMicrosoft Foundryは別のサービスですか?
A. 同じサービスです。2026年5月のMicrosoft Build 2026でブランド名が「Microsoft Foundry」に統一されました。機能面でもポータルやAPI、SDKなどが刷新されているため、旧名称の情報を参照する際は最新のドキュメントとあわせて確認することをおすすめします。
Q. Copilot StudioからMicrosoft Foundryへの移行は簡単にできるか?
A. Copilot Studioで作成したエージェントをそのままMicrosoft Foundryへ移すという単純な移行パスは用意されていません。両者は設計思想が異なるため、複雑な要件が発生した段階でMicrosoft Foundry側で新規に構築し直すか、一部の処理だけをMicrosoft Foundryに委譲する構成にするのが現実的です。
Q. 中小企業でもMicrosoft Foundryは使えるか?
A. 技術的には利用可能ですが、開発者のリソースが必要になるため、まずはCopilot Studioで小さく始め、必要に応じてMicrosoft Foundryの機能を組み合わせていく進め方が現実的です。
Q. どちらもMicrosoft 365 Copilotとは別物か?
A. はい、別物です。Microsoft 365 Copilotは完成品のAIアシスタントであるのに対し、Copilot StudioとMicrosoft Foundryはそのアシスタントやエージェントを独自にカスタマイズ・開発するためのプラットフォームです。
まとめ
Copilot StudioとMicrosoft Foundryは、どちらも「AIエージェントを作る」という目的は共通していますが、対象ユーザー・開発方式・料金体系がまったく異なります。業務部門がスピード重視で始めるならCopilot Studio、開発チームが本番運用を前提に高度なエージェントを構築するならMicrosoft Foundryが基本の選び方です。
そして忘れてはならないのが、2026年5月に「Azure AI Foundry」から「Microsoft Foundry」へと名称変更されたという事実です。情報収集の際は、この名称変更を踏まえたうえで最新のドキュメントを確認するようにしてください。
多くの企業では、最終的にはCopilot StudioとMicrosoft Foundryを併用し、業務部門向けの窓口と、開発チームが担う高度な処理を組み合わせる形に落ち着いています。自社のAIエージェント戦略を検討する際は、「どちらか一方」ではなく、レイヤーごとに適材適所で組み合わせる視点を持つことをおすすめします。
