日本では近年、ソフトドリンク類の値上げが相次いでいます。
原材料費の高騰や円安、エネルギー価格上昇に伴う製造コスト増加、物流費や人件費のアップなど、企業努力だけでは吸収しきれない負担が生じており、主要メーカー各社が相次いで価格改定に踏み切っています。
特に2022年以降、清涼飲料水の主要商品で大規模な値上げが実施され、500mlペットボトル飲料の希望小売価格が200円(税込)を超えるケースも出てきました。以下では、炭酸飲料、清涼飲料水、ミネラルウォーター、スポーツドリンクなどノンアルコール飲料全般について、主なメーカーごとの値上げ事例とその背景を整理します。
アサヒ飲料(カルピス・三ツ矢サイダー ほか)
アサヒ飲料では、このところ大規模な価格改定を繰り返しています。
2025年10月出荷分から、「三ツ矢サイダー」「カルピスウォーター」「十六茶」など約7割にあたる221品目を値上げすると発表しました。
希望小売価格ベースの値上げ幅はおよそ4%~25%で、例えば、三ツ矢サイダー(500ml PET)や十六茶(630ml PET)は税込194円から216円に、カルピスウォーター(1.5LPET)は459円から491円に引き上げられます。
原材料価格や容器材料の高騰が主因であり、これらの商品は約1年ぶりの値上げとなりました。
アサヒ飲料は、2024年10月に全商品の9割超・231品目の値上げ、2023年5月にPETボトルや缶製品の希望小売価格を約4~25%引き上げ、その前の2022年10月には大型・小型PET製品等で値上げを実施済みです。
原材料や包装資材、エネルギー価格の高騰に加え物流費の上昇が続き、企業努力だけではコスト増を吸収しきれない状況が背景にあります。
アサヒ飲料側も「高品質で安全・安心な商品の安定提供」のためコスト削減に努めてきたものの、やむを得ず価格改定に踏み切ったと説明しています。
キリンビバレッジ(午後の紅茶・生茶 ほか)
キリンビバレッジ(キリン飲料)も他社同様に価格改定を行っています。
まず2022年10月1日納品分から、「午後の紅茶」「生茶」など清涼飲料水各種の希望小売価格を一斉に6~25%引き上げました。
これは中型・小型ペットボトル飲料を中心とした大規模改定で、1990年代以降据え置かれてきたペットボトル飲料の価格を約20年ぶりに見直す動きとなりました。
続いて2023年5月1日納品分より、主に缶飲料とパウチ飲料を対象にメーカー希望小売価格を+19~23%改定しています。
例えば缶コーヒーや紙パック飲料などが軒並み値上げされ、店頭自販機での価格も順次引き上げられました。
さらに2023年10月にはトロピカーナオレンジジュース(330mlPET)など一部製品の追加値上げも発表され、同商品は税別160円から216円程度へ大幅値上げとなっています。
キリンの説明によれば、度重なる原材料費・資材費・エネルギー費の世界的高騰や円安進行が収益を圧迫する中、社内の効率化努力だけでは吸収困難と判断し価格改定に踏み切ったとしています。
サントリー食品インターナショナル(天然水・伊右衛門・BOSS ほか)
ソフトドリンク大手のサントリー食品インターナショナルも値上げラッシュに追随しています。2023年10月1日出荷分からは主に2Lペットボトルなど大容量PET製品を中心に6~22%の価格改定を実施しました。
例えば サントリー天然水(2L) は希望小売価格270円から300円(税別)に、伊右衛門 緑茶(2L) や GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶(2L) も370円から400円にそれぞれ改定されています。
同時に自社が受託販売する他社製品(ブレンディのボトルコーヒー等)も含め、合計27品目で一律+30円前後の値上げとなりました。
背景には農作物需給の逼迫や燃料価格の高騰による原材料調達コストの継続的上昇があり、加えて加工賃(人件費)の上昇や円安もコスト増要因となっています。
さらに2024年10月1日出荷分からはペットボトル製品等の一部で最大32%もの大幅値上げを発表し、続く2025年10月1日にもペットボトル・缶・瓶製品計234品の価格を6~25%(缶は10~24%)引き上げる予定です。
例えば サントリー天然水(550ml PET)は170円→190円に、クラフトボス ブラック(500ml PET) は200円→240円、ボス レインボーブレンド(185g缶) は140円→165円といった具合です。
サントリー社は「日本経済が物価上昇局面にある中、製造コストや物流コストの上昇が続き企業努力のみでの吸収が困難」としており、技術革新や生産性向上によるコスト削減に努めつつも、高品質な商品の提供を続けるためやむを得ず価格改定に踏み切ると説明しています。
コカ・コーラ ボトラーズジャパン(コカ・コーラ・綾鷹・ジョージア ほか)
日本コカ・コーラ傘下のボトラー各社も、飲料価格の引き上げを順次実施しています。
2022年10月にはコカ・コーラボトラーズジャパン社が「コカ・コーラ」や「綾鷹」などペットボトル製品を中心に6~18%の値上げを行いました。
続いて2023年10月1日出荷分よりは、「コカ・コーラ」1.5L/2Lペットや「綾鷹」2Lペット など大型PET製品、および「コカ・コーラ」700ml PETや「ジョージア 贅沢ブラック」950ml PETなど合計27品目を5~16%値上げしています。
特に2Lや1.5Lの大型ペットボトル飲料22品目は一律1本あたり30円の大幅値上げとなりました。
そして最新の発表では、2025年10月1日出荷分から主要カテゴリー製品217品目を値上げ予定です。
ペットボトル・缶飲料のほぼ全製品(一部除く)が対象で、改定率は4.8~23.0%。コーヒー系飲料は1本あたり20~30円、それ以外の清涼飲料は一律20円程度の値上げ幅になる見込みです。
今回の決定について同社は「世界的な原材料・資材・エネルギー価格の高騰や円安によるコスト増が長期化し、企業努力のみでの吸収が困難な状況になったため」と説明しています。
実際、500mlサイズの清涼飲料は店頭価格で税込200円に達する製品が増えており、値上げによる消費者負担増が懸念されています。
伊藤園(お~いお茶・健康ミネラル麦茶 ほか)
お茶飲料大手の伊藤園もまた、長年据え置いてきた清涼飲料の価格を改定しました。2022年10月1日出荷分から、「お~いお茶 緑茶」「健康ミネラルむぎ茶」など主力のペットボトル製品・ボトル缶製品(165ml~2L)計136品目を対象に4%~22%の値上げを実施しています。
伊藤園の小型ペットボトル(~600ml)値上げは1998年以来約24年ぶり、大型ペットボトルも2019年以来の改定となりました。
エネルギー費や物流費・人件費の高騰、容器包材や茶葉など原料価格の上昇が重なり「企業努力だけでコスト増を吸収し続けることは困難」と判断しての値上げとされています。
その後もコスト上昇は続いたため、2023年10月には2Lペットのお茶飲料11品種(21品目)を追加で約6.6~9.3%値上げする対応も取られました。
なお値上げ幅を見ると、伊藤園の場合、他社と比べて上限がやや高め(最大22%超)となっています。
これは缶飲料など一部商品の改定率が大きかったことによります。全体としては主要ペットボトル茶の店頭価格が500mlあたり160円前後(税込)から180円程度へ上昇するイメージで、多くの消費者にとって値上げ実感の大きいものとなりました。
その他の飲料メーカー(スポーツドリンク等)
炭酸飲料・お茶以外のカテゴリーでも値上げは広がっています。
大塚製薬は2023年4月1日納品分より、清涼飲料水20品目の希望小売価格を約5.9~15.2%引き上げました。
対象にはスポーツドリンクの「ポカリスエット」(ペットボトル各容量)や「ポカリスエット イオンウォーター」、「エネルゲン」飲料、「アミノバリュー」などが含まれます。
「ポカリスエット」500mlペットボトルは2000年以来23年ぶりの値上げで、税別140円から150円に改定されています。その後も原料費やエネルギーコスト高騰が続いたため、大塚製薬は2024年11月出荷分から再度8.8~18.2%の値上げ(ポカリ500ml税込162円→184円等)を行うと発表しました。
このほか、野菜・果汁系飲料ではカゴメが家庭用野菜ジュースやトマトジュースを含む約82品目で出荷価格を最大13.6%引き上げる改定を行うなど、ジャンルを問わず広範囲に価格上昇が波及しています。
飲料各社の収益は一時的に改善しても依然コスト増圧力が強く、仕入れ先からの再値上げ要請も相次ぐ状況です。メーカー各社は引き続き生産性向上や効率化に取り組みながら、高品質な商品の安定供給と価格の両立を図るとしています。
おわりに
各社とも共通して、原材料費(砂糖や茶葉、果汁、香料など)の上昇、ペットボトルやアルミ缶・瓶など容器包装資材の価格高騰、燃料・電力などエネルギー費用の上昇、物流コスト(ガソリン代・輸送費)の増加、そして人件費や社会保険料の上昇といった要因が指摘されています。
これらが総合的に収益を圧迫し、長年据え置かれてきた清涼飲料の価格も見直しを迫られています。メーカー各社は引き続き合理化や効率化によるコスト吸収に努めるとしていますが、消費者にとっては飲料の値上げ傾向が当面続くと考えられます。