不動産業界は「対面・紙・属人化」といったアナログな商習慣が根強く残る一方、生成AIの登場によって顧客対応や社内業務のあり方が急速に変わりつつある業界の一つです。この記事を読むと、不動産ポータル大手のLIFULLや不動産投資プラットフォームのRENOSY、総合デベロッパーの三井不動産といった主要企業が、それぞれどの業務に生成AIを使い、どの程度の効果を上げているかが具体的にわかります。
自社での生成AI導入を検討している不動産会社の経営層・DX担当者はもちろん、他業界の方にとっても、顧客との信頼関係が重視される業界がどのように生成AIを取り入れているかは参考になるはずです。まずは業界全体の導入状況から見ていきましょう。
不動産業界における生成AI導入の実態
不動産情報サービスを手がける株式会社いえらぶGROUPが実施した調査によると、業務で生成AIを利用している不動産会社は41.4%にのぼり、複数回の調査を通じて着実に増加傾向にあることが分かっています。一方で、エンドユーザー側の生成AI利用に対する意向は賛否が分かれる結果となっており、事業者側の導入が先行し、顧客接点への本格展開はこれからという段階にある業界といえます。
こうした状況を踏まえ、ここからは実際に企業名が明らかになっている事例を、「顧客接点」「査定・価格算定」「社内業務効率化」の3つの切り口で紹介します。
顧客接点における生成AI活用事例
LIFULL HOME’S|野村不動産ソリューションズと共同開発した相談AI「AI ANSWER Plus」
株式会社LIFULLが運営する「LIFULL HOME’S」は、野村不動産ソリューションズと共同開発した生成AIチャットサービス「AI ANSWER Plus(ベータ版)」を2023年11月29日から、野村不動産ソリューションズが運営する「ノムコム」上で提供しています。ユーザーの漠然とした住まいの希望を適切な検索条件に変換して物件を提案する機能と、不動産取引に関する疑問に対してノムコム内のコンテンツを参照しながらピンポイントの回答を生成する機能の2つを備えており、不動産仲介業において自社サイト利用者向けに生成AIによる対話型チャットを提供するのは国内初の取り組みとされています。
LIFULLはこれに先立ち、OpenAIの技術を活用した「LIFULL HOME’S ChatGPTプラグイン」や、住宅弱者向けの接客知識を提供する生成AIチャット「接客サポートAI by FRIENDLY DOOR」も国内不動産ポータルとして先駆けて公開しており、生成AI活用における先行企業の一つに位置付けられます。さらに2026年6月からは、リコーとの協業により、360度空間データから物件動画をAIが自動生成する機能の提供も始まっており、テキスト生成にとどまらず動画コンテンツの自動化にも活用範囲を広げています。
GA technologies(RENOSY)|統計解析とRAGを組み合わせた面談支援AI
投資用不動産のオーナー数で全国トップクラスの実績を持つ「RENOSY(リノシー)」を運営するGA technologiesは、2025年9月10日から面談支援AIの運用を開始しました。2万人を超えるオーナーとの面談データに統計的因果推論を適用し、顧客の年齢・年収や担当者の傾向といった複雑な要因を分析したうえで、RAG(検索拡張生成)を組み込んだ大規模言語モデルが提案内容を自動生成する仕組みです。ハルシネーションを実用上問題のない水準まで抑えている点が特徴で、担当者からは「客観的な準備が可能になり、多角的な視点で提案ができた」との声が上がっています。
このほかRENOSYでは、LINE公式アカウントにAI-Chatbotを導入し、オーナー・入居者からの問い合わせに管理システム上の顧客情報をもとにパーソナライズした一次対応を行う仕組みも展開しています。問い合わせ対応領域での生成AI活用については、生成AI活用事例まとめ|問い合わせ対応・カスタマーサポート編でも他業界の事例を紹介していますので、あわせてご覧ください。
査定・価格算定における生成AI活用事例
住友不動産ステップ・三井不動産リアルティ|AIによる価格査定
住友不動産グループの仲介会社である住友不動産ステップは、物件の基本情報を入力するだけで蓄積した相場データや成約事例をもとに売却価格や賃料の目安を提示する「ステップAI査定」を無料で提供しています。同様に、三井不動産リアルティは株式会社エクサウィザーズと共同で、所有マンションの推定成約価格をAIが即時算出する「リハウスAI査定」を2019年12月から運用しています。
これらの査定AIは、文章や画像を生成する狭義の「生成AI」ではなく、蓄積データから価格を予測する機械学習モデルが中心である点には注意が必要です。ただし、いずれも大量の成約事例を学習に用いる点は生成AIの基盤モデルと共通しており、不動産業界における「データドリブンなAI活用」の土台として、生成AIチャットや相談サービスと組み合わせて使われる流れが強まっています。
社内業務効率化における生成AI活用事例
三井不動産|全社員2,500名が使う生成AIチャットボット「&Chat」
総合不動産デベロッパーの三井不動産は、2023年8月から全社約2,500名の社員を対象に、社内専用の生成AIチャットボット「&Chat(アンドチャット)」の運用を開始しました。文書作成や情報検索、社内ナレッジへの照会といった日常業務の効率化を目的としており、全社員規模での生成AI活用にいち早く踏み出した事例の一つです。同社は2025年末には独自のAIエージェント開発にも着手しており、全部門に150名規模のAI推進リーダーを設置するなど、活用の裾野を広げる体制づくりを進めています。
LIFULL|全社的な生成AI活用で年間41,820時間の業務時間を創出
LIFULLは2023年8月に生成AI専門チームを立ち上げ、全社的な活用を推進してきました。2023年10月から2024年9月までの1年間の社内調査では、LIFULL単体従業員の82%にあたる532名が「生成AIを活用して業務効率化できている」と回答し、総勤務時間の3.2%にあたる41,820時間の新たな業務時間を創出したと発表しています。活用シーンとしては「文章・資料の作成/編集/添削」が最も多く、業務時間を創出できた従業員のおよそ6割が該当すると報告されています。資料作成領域での生成AI活用の全体像は、資料作成の生成AI活用事例まとめでも他業界の事例とあわせて紹介しています。
エンジニア・デザイナー職ではほぼ100%の活用率に達している一方、活用障壁が高いとされるバックオフィス職でも84.3%、営業職でも74.9%が活用できている点は、業種を問わず全社展開を目指す企業にとって参考になるデータといえるでしょう。
不動産業界の生成AI活用事例|比較表
| 企業 | 主な取り組み | 活用AI技術/パートナー | 開始時期 |
|---|---|---|---|
| LIFULL HOME’S | 相談AIチャット「AI ANSWER Plus」 | 生成AI、野村不動産ソリューションズ協業 | 2023年11月 |
| LIFULL HOME’S | 360度データからのAI動画自動生成 | 生成AI、リコー協業 | 2026年6月 |
| GA technologies(RENOSY) | 面談支援AI | RAG+LLM、統計的因果推論 | 2025年9月 |
| GA technologies(RENOSY) | LINE公式AI-Chatbot | 生成AI | 順次展開 |
| 三井不動産 | 社内生成AIチャットボット「&Chat」 | 生成AI(社内専用) | 2023年8月 |
| 住友不動産ステップ | 「ステップAI査定」 | 機械学習(価格予測) | 提供中 |
| 三井不動産リアルティ | 「リハウスAI査定」 | 機械学習、エクサウィザーズ協業 | 2019年12月 |
事例から見える3つのトレンド
「検索型」から「対話型」への転換
LIFULLの「AI ANSWER Plus」のように、従来のキーワード検索でのポータル利用から、ユーザーの漠然とした希望を汲み取って対話形式で物件や情報を提案する仕組みへの転換が進んでいます。不動産取引は専門知識を要する意思決定であるため、単なる検索エンジンでは拾いきれない個別事情に寄り添えることが、生成AIならではの強みとして評価されています。
対顧客サービスと社内業務効率化の両輪展開
三井不動産の「&Chat」やLIFULLの社内活用のように、まず社内の文書作成・情報検索といった業務効率化から着手し、そのノウハウを顧客向けサービスの開発に応用していく流れが共通しています。RENOSYの面談支援AIも、社内に蓄積した面談データという「内部資産」を顧客向け価値に転換した事例と位置付けられます。社内向け生成AI活用の進め方については、ChatGPT・Claude・Copilot 使い分けガイドでもツール選定の考え方を整理していますので、あわせてご覧ください。
「生成AI」と「予測AI」の役割分担が明確化
住友不動産ステップや三井不動産リアルティの査定AIのように、価格予測は従来型の機械学習モデルが担い、顧客対応や文書作成は生成AI(LLM)が担うという役割分担が明確になりつつあります。両者を混同せず、それぞれの得意領域に応じて使い分ける設計思想が、不動産業界におけるAI活用の実務的な特徴といえるでしょう。
不動産業界で生成AIを導入する際の注意点
不動産取引は個人の資産形成に直結する意思決定であるため、生成AIが提示する査定額や提案内容をそのまま鵜呑みにせず、最終的な判断や重要事項説明は宅地建物取引士などの有資格者が担う体制を維持することが欠かせません。RENOSYの面談支援AIも、あくまで担当者の提案準備を支援する位置付けであり、AIが単独で顧客への提案内容を決定しているわけではない点が参考になります。
また、個人情報や資産状況といった機微な情報を扱う場面が多いため、LIFULLやRENOSYの事例のように、社内向けの効率化ツールから段階的に導入し、効果を検証しながら顧客接点へと展開範囲を広げていくアプローチが、他業界と同様に有効です。中小規模の不動産会社であれば、大手が提供する外部サービス(AI査定ツールやチャットボットのAPI連携など)を活用することで、自社開発の負担なく生成AIの恩恵を受けられる選択肢も広がっています。
疑問点
Q. 不動産業界で生成AIが最も活用されている業務は何か。
A. LIFULLの調査では「文章・資料の作成/編集/添削」が最も多く、そこに顧客からの問い合わせ対応や物件提案の生成、社内ナレッジの検索が続きます。対外的にはチャット形式の相談サービスや査定ツールとしての活用が目立ちます。
Q. 「AI査定」はすべて生成AIによるものか。
A. 住友不動産ステップの「ステップAI査定」や三井不動産リアルティの「リハウスAI査定」は、過去の成約データから価格を予測する機械学習モデルが中心で、文章や対話を生成する狭義の生成AIとは技術的に異なります。両者は今後、組み合わせて使われる場面が増えると考えられます。
Q. 中小規模の不動産会社でも参考にできる。
A. RENOSYのLINE公式AI-Chatbotのように、既存のコミュニケーションツールにAI機能を組み込む形の活用例が増えており、自社でLLMを開発しなくても外部サービスの導入によって同様の効果を得やすくなっています。
まとめ
2026年の不動産業界では、LIFULLやGA technologies(RENOSY)のように顧客との対話や面談を支援する生成AIの活用が本格化する一方、三井不動産のように全社員規模で社内業務の効率化から着手する動きも着実に広がっています。価格予測を担う従来型AIと、対話・文書生成を担う生成AIの役割分担を意識しながら、社内効率化から顧客接点へと段階的に展開範囲を広げていくアプローチは、業界を問わず生成AI導入を検討する際の参考になるはずです。
参考サイト・引用元
- 不動産会社の2割が業務に生成AIを導入済み|いえらぶ調べ(株式会社いえらぶGROUP)
- 生成AIを業務で利用している不動産会社は41.4%!|いえらぶ調べ(株式会社いえらぶGROUP)
- LIFULL HOME’Sと野村不動産ソリューションズが生成AI活用の相談AIサービス「AI ANSWER Plus」を提供開始(LIFULL公式)
- LIFULL HOME’S 賃貸、360度空間データから物件動画をAIで自動生成する機能を2026年6月より開始(LIFULL公式)
- LIFULL、生成AIの社内活用を推進し、年間で約42,000時間の業務時間を創出(LIFULL公式)
- AI不動産投資RENOSY、お客様との面談支援AIを開発、運用開始(GA technologies公式プレスリリース)
- RENOSY、オーナー・入居者向けLINE公式アカウントにAI-Chatbotを導入(GA technologies公式)
- 三井不動産|社長AIエージェントなど独自AI開発と、全部門で150名のAI推進リーダーを設置(三井不動産公式)
- ステップAI査定(無料)|すみふの仲介ステップ(住友不動産ステップ公式)
- 不動産業界の課題を解決する生成AI!できること・活用事例5選(WEEL)
