労働力不足とコンタクトセンターの働き方改革を背景に、問い合わせ対応・カスタマーサポート領域における生成AI活用が2026年に入り「実証実験」から「実運用」の段階へと大きく進んでいます。かつては定型的なFAQへの自動応答が中心でしたが、最近では自律的に顧客の意図を汲み取り、追加質問をしながら手続きそのものを完結させる「自律型AIオペレーター」の導入が、通信キャリアからクレジットカード会社、航空会社まで急速に広がっています。
背景には、コンタクトセンター業界そのものの構造的な課題があります。国内では2030年にサービス業を中心に644万人の労働力が不足すると推定されており、24時間対応や離職率の高さに悩む問い合わせ窓口ほど、生成AIによる自動化の恩恵を受けやすい状況です。一方で、AIに任せる範囲を広げすぎて顧客体験を損なった海外企業の事例も出てきており、「どこまでAIに任せるか」という設計思想の違いが、各社の取り組みに色濃く表れ始めています。
この記事では、2025年後半から2026年にかけて発表されたカスタマーサポート領域の生成AI活用事例を、企業名・数値を含めてまとめます。金融業界における生成AI活用の全体像は金融業界の生成AI活用事例まとめでも取り上げていますので、あわせてご覧ください。
通信キャリアの問い合わせ対応DX|KDDIとソフトバンク
KDDI|チャットボット完結率85%から自律型AIエージェントへ
au、UQ mobileなどを展開するKDDIは、月間約200万件の問い合わせが寄せられる「KDDIお客さまセンター」で生成AI活用を積み重ねてきました。KDDIとアルティウスリンク株式会社は2024年11月11日、これまでの成果として、LINEアカウント「auサポート」のチャットボットに生成AIを導入し、顧客の入力内容を要約・再質問することで完結率85%を実現しました。あわせて音声認識ツールで全音源の応対評価を自動化し、応対品質管理者の工数を年間約24,000時間削減、顧客満足度もアンケートベースで+3.6ポイントの84%まで向上させています。この取り組みは「コンタクトセンター・アワード2024」の最優秀テクノロジー部門賞を受賞しました。
さらにKDDIは2026年3月10日、お客さまセンターの応対実績をもとに独自開発した自律型AIエージェントによる問い合わせ対応を開始したと発表しました。生成AIとデジタルヒューマンを組み合わせたオンラインサポート「auサポート AIアドバイザー」や、LINE・Webチャットの「チャットサポート」に本AIエージェントを実装し、まずはau PAY・au PAYカード・Pontaポイントに関する問い合わせから対応を始めています。従来の定型AIでは意図を十分に認識できず会話が成立しにくい場面があったといい、追加質問や深掘りの要否を自律的に判断できる点が特徴です。KDDIは2026年度内をめどに、auサービスに関わるすべての問い合わせへ対応範囲を拡大する方針で、すでに問い合わせの55%以上をデジタルチャネルで応対しているといいます。
ソフトバンク|”ワイモバイル”に自律思考型生成AIを導入
ソフトバンクは2025年11月7日、”ワイモバイル”のカスタマーサポートに音声対応の自律思考型AIプラットフォームを2025年8月下旬に導入し、暗証番号の照会業務を音声で自動化したと発表しました。大規模言語モデルと自社開発の知識推論エンジンを組み合わせることで、複雑な条件判断や非定型な問い合わせにも柔軟に対応できるとしています。同社は2019年からコールセンターでAI活用を開始し、2024年3月には日本マイクロソフトと共同でコールセンター業務自動化プラットフォームの開発に着手、2025年2月には生成AIとRAG(検索拡張生成)を活用した回答支援チャットを導入するなど、段階的にAI活用の幅を広げてきた経緯があります。
カード業界に広がる自律型AIオペレーター「X-Ghost」
ソフトバンクの完全子会社であるGen-AX株式会社は2025年11月10日、コンタクトセンター向け自律思考型AI音声応対ソリューション「X-Ghost(クロスゴースト)」の正式提供を開始しました。単に自然に会話できるだけでなく、企業ごとに定められた業務フローを正確に実行し、必要に応じて人間のオペレーターへエスカレーションできる点が特徴です。2026年7月14日開催の「SoftBank World 2026」では、事業開始からわずか半年で27社から受注・内諾を獲得し、年間約7,000万コール規模の実運用に向けて進んでいることが明らかにされました。導入企業の内訳は銀行・証券が7社、決済・カードが5社、生保・損保が4社、交通・インフラが4社など多岐にわたります。Gen-AXによれば、コンタクトセンターとインハウス業務を合わせた「問い合わせ市場」は2024年度中に約2兆円規模に拡大すると見込まれており、音声認識市場も2023〜2028年度に年平均16.9%で成長し、2028年度には300億円超に達すると予測されています。労働力不足と離職率の高さが常態化するなかで、AIオペレーターへの投資はもはや一部の先進企業だけの取り組みではなくなりつつあるといえるでしょう。
三井住友カード|「待たせない」から「AIだけで完結できるか」へ
三井住友カードには月間約50万件の電話が寄せられており、安定した応答体制の維持が長年の課題でした。同社はX-Ghostを導入し、問い合わせの受け付けだけでなく、バックエンドと連携したデータ更新などの業務処理までAIが担う方向へ拡張を進めています。同社オペレーションサービス本部の大保友実氏は、重視しているKPIについて「AIだけで顧客の用件を最後まで完結できたか」だと説明し、「お客様はせっかく貴重なお時間で電話してきてくださったので、完結しないとやっぱり気持ち悪い」と述べています。目指すAI像についても「お客様側からすると、『普通だね』と、すっと馴染む」ものだと語っており、AIの存在感を前面に出すのではなく、自然に業務へ溶け込ませる方向性がうかがえます。
JALカード|”おもてなし”とAIの役割分担
一方、日本航空グループのJALカードは異なるアプローチを取っています。従来はプッシュ番号で用件を選ぶIVR方式を採用していましたが、X-Ghostの導入により、顧客が自然な言葉で話した内容をAIが理解し、適切な窓口へつなぐ「入り口」の部分を任せています。JALデジタル株式会社の福島雅哉氏は、AIと社員が共存し、互いに得意な領域を生かすことがJALグループの基本方針だと説明しており、「おもてなし」の中核はまだ人間が担うべき領域があるとしつつ、その手前の部分をAIが担うことで、よりスムーズな顧客対応を目指しているといいます。同じX-Ghostを使いながら、三井住友カードは業務処理の「完結」を、JALカードは接点の「入り口」を重視するなど、企業の課題や顧客との関係性に応じて任せる範囲を変えている点が興味深いところです。
楽天グループの生成AIカスタマーサポート活用
楽天モバイルは2024年12月18日、生成AIを活用したチャット形式のサポートサービス「楽天モバイルAIアシスタント2.0」の本格提供を開始しました。この取り組みは2025年度の「IT賞(顧客価値・サービス革新)」を受賞しています。また楽天カードは2026年4月7日から「楽天カードチャットサポート」においてAI検索システムを本格導入し、蓄積される問い合わせデータをもとにテンプレートの追加や生成AI活用をさらに進めていく方針です。通信・決済という異なる事業領域を持つグループ全体で、AIを活用した問い合わせ対応の高度化が進んでいる様子がうかがえます。
海外事例に学ぶ|KlarnaのAI活用とその軌道修正
スウェーデン発のBNPL(後払い決済)大手Klarnaは、生成AI活用による顧客対応の代表的な事例として世界的に知られています。同社は2024年にAIアシスタントを本格導入し、稼働開始1カ月で230万件の会話に対応、従業員700人分の業務量に相当するとして約4,000万ドルの利益貢献を見込むと発表しました。しかし2025年に入り、CEOのセバスティアン・シェミアトコウスキ氏は「コスト削減を優先しすぎた結果、品質が下がった」と認め、同年5月には人間のオペレーターの再雇用にかじを切っています。顧客からは「回答が画一的で、複雑な質問に対応できない」という不満も出ていたといいます。
その後もKlarnaはAI活用そのものを後退させたわけではなく、2025年第3四半期の決算説明では、AIアシスタントが従業員853人分の業務量に相当し、年間6,000万ドルのコスト削減効果を生んでいると説明しています。応答速度は導入前より82%高速化し、顧客満足度は人間のオペレーターと同水準、ネットプロモータースコアは73に達したとしています。一方で、同四半期の顧客対応・オペレーションコストは5,000万ドルと、前年の4,200万ドルから増加しており、コスト削減と品質維持の両立が簡単ではないことも示しています。効率化の数値だけを追い求めるのではなく、顧客体験とのバランスを取りながら段階的に自動化範囲を広げるべきだという教訓は、日本企業が問い合わせ対応にAIを導入する際にも参考になるでしょう。
まとめ|問い合わせ対応領域で生成AIを導入する際のポイント
ここまで見てきた事例に共通するのは、AI導入の目的が「AI化率を高めること」自体ではなく、顧客を待たせない、問い合わせを最後まで解決する、そして人間にしかできない価値の高い対応に人的リソースを集中させるという点にあることです。三井住友カードとJALカードのように、同じソリューションを使っていても、企業の課題や顧客との関係性に応じて任せる業務範囲を変えている点も重要な示唆です。また、Klarnaの事例が示すように、コスト削減を急ぎすぎた結果として顧客体験が損なわれるリスクもあり、KPIを継続的に確認しながら改善を重ねる運用体制が欠かせません。生成AIの活用が進むほど、コンタクトセンターのKPIそのものも「応答率」から「完結率」や「顧客体験」へと変化しつつあります。企業や部門を問わず、問い合わせ対応の高度化を検討する際には、こうした国内外の先行事例が具体的な設計の参考になるはずです。
生成AIの企業導入動向全般については、Claude導入事例まとめでも各業界の事例を紹介していますので、あわせてご覧ください。
参考サイト
- KDDIとアルティウスリンク、カスタマーサポート領域の新事業プロジェクトを開始(KDDI株式会社)
- お客さまセンターの応対実績を基に独自開発した自律型AIエージェントによるお問い合わせ対応を開始(KDDI ニュースルーム)
- “ワイモバイル”のカスタマーサポートに自律思考型生成AIを導入(ソフトバンク株式会社)
- 生成AIが音声対話、三井住友カードとJALカードの先行事例を紹介!Gen-AXとソフトバンクの自律思考AI「クロスゴースト」(ロボスタ)
- AIの電話応対「X-Ghost」開始半年で27社、年間7,000万コール規模へ(ロボスタ)
- 楽天モバイル、チャット形式のAIサポートサービス「楽天モバイルAIアシスタント2.0」の本格提供を開始(楽天モバイル株式会社)
- 「楽天カードチャットサポート」においてAIを本格的に導入開始(楽天カード株式会社)
- Klarna says its AI agent is doing the work of 853 employees(CX Dive)

