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日産自動車 2025年3月期に7500億円の赤字見込み – 背景と今後の展望を調べてみた

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2025年3月期(2024年4月~2025年3月)の決算で、日産自動車が約7,000~7,500億円もの最終赤字(純損失)に陥る見通しであることが明らかになりました。

この赤字額は過去最大規模で、同社は一般消費者向けにもその主な要因や今後の対応策について説明を行っています。

本記事では、この記録的赤字の背景にある原因や経営環境の変化、過去の業績との比較、そして業績回復に向けた日産の対策と見通しについて、まとめてみます。

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赤字の主な原因 – なぜ巨額損失に?

今回の7500億円規模の赤字には、いくつかの主要な要因が重なっています。

販売不振と競争激化

世界各地域で販売が想定より振るわず、特に中国や北米での販売不振が響きました​。

中国市場では電気自動車(EV)やハイブリッド車に強い現地メーカー(BYDなど)の台頭により、日産など外国勢のシェアが急落しています。

北米市場でも、トヨタのようにハイブリッド車を豊富に揃える競合に比べて日産のラインナップは出遅れ、需要の変化に乗り遅れたことで販売減少に直結しました。

実際、日産は「米国でハイブリッド需要の高まりを読み違えた」と認めており、主力車種のてこ入れが計画通り進まなかったとしています。

​参考:reuters.com

円高・コスト上昇など外部環境

為替相場の変動も収益に影響しました。

近年の急激な円安傾向は輸出企業である日産の業績を下支えしてきましたが​、足元では円高方向への振れにより、海外収益の円換算額減少や輸出採算の悪化という逆風に転じました。

また、世界的なインフレや原材料価格の高騰、金利上昇による自動車ローン金利の上昇など、経営環境の悪化も利益圧迫につながりました。

これら外部要因により、日産に限らず自動車業界全体で収益確保が難しくなっています。

構造改革費用の発生

業績悪化に対応するため大規模な構造改革を進めており、その関連費用が今期の損失を大きく膨らませました。

同社の発表によれば、世界各地域(北米、南米、欧州、日本など)で生産拠点や資産の評価を見直した結果、5000億円以上の減損損失(資産評価減)を計上し、さらに構造改革のために600億円超の追加コストが発生したとされています。

これには工場閉鎖や設備の減損処理、希望退職や人員整理に伴う費用などが含まれます。

実際、日産は2024年度中にタイの工場閉鎖を含む生産体制見直しを進め、2026年度までに世界で9,000人の人員削減を計画するなど、約4,000億円規模のコスト削減策を打ち出しています。

こうした一時費用が今期の最終損益を大幅なマイナスに転落させる主因となりました。

以上のように、「販売減による収益悪化」「円高・コスト高といった経営環境の逆風」「将来に向けた構造改革の費用計上」という三つの要因が重なり、過去に例を見ない巨額赤字を招いたといえます​。

日産自身も声明の中で「競争環境の変化と販売業績の悪化」が主因だと説明しており、現在の状況を非常に重く受け止めています。

参考:​reuters.com​、japantimes.co.jp

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世界・国内市場の動向 – 日産を取り巻く経営環境

日産の業績悪化の背景には、同社を取り巻く自動車業界の経営環境変化があります。

世界最大の自動車市場である中国をはじめ、日本国内や北米など主要市場でどのような変化が起きているのか見てみます。

中国市場: 電動車シフトと現地メーカー台頭

中国では自動車の電動化シフトが急速に進み、政府の後押しも受けた現地メーカーがEVやプラグインハイブリッド車で躍進しています​reuters.com

BYD(比亜迪)やNIOなど中国メーカー各社は価格面でも性能面でも競争力を高め、ソフトウェアやコネクテッド機能など若年層の嗜好に合った車種を投入しています​。

結果、日産を含む日系メーカーは中国市場でシェアを大きく奪われ、販売台数が大幅に落ち込んでいます。日産は巻き返しを図るため、現地の提携先である東風汽車との共同によるEV・ハイブリッドの新モデル(コンセプトカー含む)を北京モーターショーで発表し、中国市場のニーズに合わせた車種投入に舵を切り始めました。

ただ、中国市場で失った存在感を取り戻すには時間がかかると見られています。

​参考:reuters.com

北米市場: ハイブリッド需要への対応遅れ

一方、北米(特に米国)ではガソリン車からハイブリッド車・電気自動車への需要転換が進んでいますが、日産はトヨタなどの競合他社に比べ、ハイブリッド車の投入が遅れました。

例えばトヨタがプリウスをはじめ多彩なハイブリッド車で市場を押さえる中、日産の北米向けラインナップはEVのリーフやアリアはあるものの、燃費と価格のバランスが取れたハイブリッドSUV・セダンが手薄でした。

この戦略ミスにより、ガソリン高騰や環境意識の高まりで増えたハイブリッド需要を十分に取り込めず、米国での販売台数・シェア低下につながりました。

日産はようやく北米向け主力モデルへの電動化技術適用を加速し始めましたが、競合に先行された分の巻き返しが課題となっています。

参考:​reuters.com

日本国内市場: 成長停滞と熾烈な競争

日本市場に目を向けると、全体の新車販売台数は緩やかな回復傾向にあるものの市場自体の成長余地は限定的です。

少子高齢化による国内需要の伸び悩みや、若者のクルマ離れなど構造的な課題がある中、各社は限られたパイを奪い合っています。

国内販売に強いトヨタやホンダに対し、日産は軽自動車(三菱自との協業による日産サクラなどEV軽も投入)やe-POWER搭載車で一定の存在感を示すものの、販売ランキング上位は依然トヨタ系車種が占める状況です。

また、トヨタ・ホンダが国内でもハイブリッド車や新型EVを増やす中、日産も国内向けに新型EV「アリア」や新型セレナのe-POWERモデルなどを投入していますが、ラインナップ拡充と販売力強化が継続課題です。

総じて、日本市場は成熟化による成長の鈍さ競合他社との熾烈な競争が同時に存在し、日産の収益に大きなブレイクスルーをもたらす状況には至っていません。

マクロ経済要因

これら市場ごとの要因に加え、世界経済の動向も自動車業界に影響しています。

欧米を中心に続くインフレ圧力への対策で各国が利上げを行った結果、自動車ローン金利が上昇し消費者の購入意欲に水を差しています。

また、原材料価格の高止まりや物流費の上昇などコスト面の負担増も各社の利益を圧迫しました。一時期深刻だった半導体不足は徐々に改善しつつあるものの、「売れても利益が出にくい」環境が続いていることが、日産にとっても逆風となりました。

以上のように、グローバル規模での需要動向や競争環境の変化が日産の業績悪化を招いた背景と言えます。

特に中国・米国という大市場での戦略見直しは急務であり、国内含め各市場での競争力強化が求められています。

過去の業績との比較 – リーマン・ゴーン危機以来の落ち込み

今回予想される7500億円の巨額赤字は、日産の歴史の中でも異例の規模です。

2019年度(2020年3月期)、日産はカルロス・ゴーン元会長の退任劇後の混乱や世界販売の失速により、連結純損失6712億円という当時過去最悪の赤字を計上しました。

続く2020年度(2021年3月期)もコロナ禍の打撃が直撃し、4487億円の赤字と2年連続の大幅赤字となりました。

しかしその後、構造改革「Nissan Next」の効果や円安追い風もあって業績は持ち直し、2021年度(2022年3月期)には2155億円の黒字に転換。さらに2022年度(2023年3月期)にはダイムラー株売却益など特殊要因も寄与して純利益2219億円となり、2023年度(2024年3月期)には純利益4266億円と2倍近い増益を達成していました​。

日産はその時点で翌2024年度も約3800億円の最終黒字を見込むと発表していたほど、経営再建は順調に進んでいるかに見えていたのです​。

しかし今回、2024年度(2025年3月期)は一転して最大7500億円規模の赤字に陥る見通しとなり、わずか1年で業績が急降下する形となりました​。この赤字額は前述した2019年度の6712億円をも上回り、年間ベースで過去最大の損失となります​。

わずか数年前には数千億円規模の黒字を生み出していた日産が、再び巨額赤字に転落する事態は、同社の財務基盤に大きな打撃を与えるのはもちろん、株主や取引金融機関にも衝撃を与えています。「リーマンショック後やゴーン事件後以上の危機」という声も出ており、この非常事態への対応が急務となっています。

過去の事例を見れば、日産はこれまでも経営危機を乗り越えて復活を遂げてきました。2000年前後の経営危機ではカルロス・ゴーン氏のリーダーシップの下「日産リバイバルプラン」で奇跡的なV字回復を実現しましたし、直近では2020年前後の巨額赤字から2023年には黒字基調に戻した実績もあります。

参考:​english.kyodonews.netjapantimes.co.jpchannelnewsasia.com

業績回復に向けた日産の対策と今後の見通し

巨額赤字という苦境に直面した日産ですが、将来の業績回復に向けて様々な改革と戦略を打ち出しています。

大規模リストラとコスト削減

まず収益構造を立て直すため、日産は徹底したコスト削減と事業のスリム化に乗り出しています。その柱が生産体制の再編と人員削減です。

日産は2024年11月までに世界で9,000人規模(全従業員の約7%)の人員削減を公表しており、これは早期退職の募集や自然減に加え、一部工場の閉鎖・売却に伴う人員整理を含むものです​。具体的には、タイの完成車工場を2025年初めに閉鎖するほか、生産ラインの統廃合により他の2工場も段階的に閉鎖する計画です。

これらの施策によって2026年度までに計4,000億円規模の固定費・変動費削減を目指しており​、自動車事業の損益分岐点を大幅に引き下げる狙いがあります。

また、経営のスリム化として組織体制の見直しも進めています。

例えば執行役員制度を廃止し、経営幹部ポストを2割削減するなどトップマネジメント層の簡素化を図ると発表しました​。肥大化した組織を引き締めて意思決定の迅速化と経営効率の向上を目指す方針です。

さらには、グローバルで遊休資産の売却や不採算事業からの撤退も進めています。報道によれば、資本提携する三菱自動車株の一部売却(最大で保有株の10%相当)も検討し約686億円の資金捻出を図る動きがあるとされ、資産整理と財務体質強化によって将来の投資原資を確保しようとしています。

参考:reuters.com

新モデル投入と電動化戦略の加速

収益改善には売上(トップライン)の回復も不可欠です。そのため日産は今後数年間で魅力的な新型車を次々と投入し、商品力強化による販売拡大を目指しています。特に力を入れているのが電動化戦略です。日産は2030年に向けた長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の下、電気自動車(EV)やe-POWERハイブリッドなど電動車のラインナップ拡充を進めています。

具体的な目標として、2026年度までに16車種の新型EVを投入し、同年度にはグローバル販売モデルの40%をEVが占めるようにする計画です。さらに2030年度にはそれを60%まで高める目標を掲げています​。

この実現に向け、日産は約4,000億円を電池分野に投資し、生産コストを2030年までに3割削減する技術開発にも取り組んでいます。EV専用の新プラットフォームや全固体電池の開発も進められており、将来的には電費性能やコスト面で競合優位に立つ狙いです。

また、既存車種の電動化も加速します。日産は独自のシリーズ方式ハイブリッド「e-POWER」をセダンやSUV含めグローバル主力モデルに順次展開し、米国市場にも投入する方針です。前述の通り北米ではハイブリッド不足が課題でしたが、例えば次期型ローグ(エクストレイル)やアルティマといったモデルにe-POWERを採用するなどの対応が予想されます。

中国市場向けにも、東風汽車との合弁で開発したEV・プラグインハイブリッド車を投入し、若者にアピールできる先進的なソフトウェア機能を搭載する計画です​。これら新モデル群がヒットすれば、販売台数の底上げと市場シェア回復につながると期待されています。

参考:​investopedia.com

アライアンス強化とパートナー戦略

日産はルノー・三菱自動車とのアライアンス(企業連合)を組んでおり、開発や生産を協調することで効率化を図っています。2023年にはルノーとの資本関係見直し(出資比率を双方向15%に揃える)に合意し、関係を対等な形に再構築しました。

この新体制の下、日産はルノーが分社化するEV専業会社「Ampere(アンペア)」に出資し、電動車技術を共有する計画です。これにより欧州市場向けのEV展開などで協力しコスト負担を減らす狙いがあります。また三菱自動車とは軽自動車EVの共同開発など国内市場での協業を深化させています。

一方で、近年模索していたホンダとの提携交渉は2024年初めに正式に打ち切られました​。ホンダとの連携による規模拡大や技術協力は実現しなかったものの、日産経営陣は「単独では生き残りが難しい」として今後も何らかのパートナーシップを模索する可能性を示唆しています​。

実際、ケースによっては他社と工場を融通し合う生産提携や、ソフトウェア分野での提携(例:百度との自動運転AI研究​)など、従来の枠にとらわれない協業の道を探っています。今後の業績回復には自社努力のみならず「外部との連携によるシナジー効果」も鍵となるでしょう。

参考:japantimes.co.jpasiafinancial.com

今後の業績見通し

日産は2025年5月中旬に正式な2025年3月期決算を発表予定であり、最終的な赤字額や来期見通しが示される見込みです。市場では、構造改革費用の一巡後には2026年3月期以降に黒字復帰できる可能性が指摘されています。日産自身も中期経営計画で2026年度に自動車販売台数を2023年度比で100万台増加させ、営業利益率6%以上を達成する目標を掲げています。

もっとも、電動化やソフトウェア化で競争が激化する自動車業界において、日産が再び安定的に利益を生み出す体質を確立できるかは不透明要素もあります。EV市場ではテスラを筆頭に先行する競合がおり、価格競争も激しくなっています。またマクロ経済の景気動向次第では販売回復が遅れるリスクも残ります。

足元の記録的赤字は厳しい現実ですが、将来に向けた痛みを今出し切れば、回復に向かうのかもしれません。

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