生成AIによる「コード生成」は、チャットボットや文書要約と並んで、企業への導入がもっとも早く進んだ領域のひとつです。GitHub CopilotやClaude Code、Cursorといったツールが出そろい、各社の活用は「試してみる」段階から「開発プロセス全体に組み込み、数値で効果を語る」段階へと移っています。今回は、楽天グループ、日立製作所、東芝テック、マネーフォワードという4社の公式発表・公式事例をもとに、コード生成AIがどのような成果を上げているのかをまとめました。エンジニアの方はもちろん、自社への導入を検討している経営層やIT部門の方にも参考になる内容です。
生成AIツール全体の使い分けや、Claudeの他の企業導入事例については、以下の記事もあわせてご覧ください。
Claude導入事例まとめ|開発効率化から全社エージェント活用まで【2026年8月】
楽天グループ|Claude Codeで新機能のリリース期間を79%短縮
数千人規模の開発組織が抱えていた課題
楽天グループは、EC・トラベル・フィンテック・デジタルコンテンツなど70以上の事業を展開しており、数千人規模のエンジニアが日々開発にあたっています。同社のAI for Business部門でジェネラルマネージャーを務めるKaji氏は「スピードとROIが重要な指標であり、AIがどれだけ速くコードを書けるかではなく、顧客にどれだけ早く価値を届けられるかで成功を測っている」と説明しています。事業規模が拡大するほど、開発スピードと品質・セキュリティ基準の両立が難しくなる、という課題を抱えていました。
Claude Code導入による成果
楽天はAIコーディングエージェント「Claude Code」を全社的に導入し、以下のような成果を公式に発表しています。
- 新機能のリリースまでの期間を、従来の24営業日から5営業日へ、79%短縮
- 1,250万行規模のオープンソースライブラリ「vLLM」に対する複雑なリファクタリングで、7時間にわたる自律的なコーディングを実現し、99.9%の数値精度を達成
- Claude Managed Agentsを製品・営業・マーケティング・財務の各部門に、それぞれ1週間以内で展開
同社の取り組みで注目したいのは、対象がエンジニアだけに閉じていない点です。ターミナル操作に不慣れな非エンジニアの従業員にもClaude Codeの利用を広げており、コーディングガイドラインを整備することで、直接コードを書かない立場の人でも開発プロジェクトに貢献できる体制を構築しています。楽天の事例をより詳しく知りたい方は、上記の内部リンク先の記事もあわせてご確認ください。
日立製作所|GitHub Copilotと自社フレームワークの掛け合わせで生産性向上
約200名から始めた社内評価、現在は約2,000名が利用
日立製作所は2023年5月に「Generative AIセンター」を設置し、投資家向けにも「システム開発の生産性を2027年までに30%向上させる」という目標を公表しています。その具体策の一つが、2021年から社内展開しているGitHubの延長として位置づけられるGitHub Copilotの活用です。
2023年10月から約200名のユーザーを対象に3〜4か月間の社内評価を実施し、開発者の生産性を多角的に評価する「SPACEフレームワーク」に基づくアンケート調査を実施しました。その結果、6つの評価指標のうち5項目で70%以上の高評価となり、「タスクを迅速に完了できる」という項目では83%という高い支持を得ています。現在の主な用途はコーディングと単体テストで、この領域では平均10〜20%、ケースによっては30%の生産性向上効果が確認されています。評価期間中にユーザー数は急増し、現在は約2,000名が利用、今後5,000名まで拡大する計画です。
独自フレームワーク「Justware OSS ベース」との連携で成果を最大化
日立製作所の事例で特徴的なのは、GitHub Copilot単体ではなく、自社の開発フレームワーク「日立アプリケーションフレームワーク Justware OSS ベース」と組み合わせている点です。Justware OSS ベースは詳細設計からルールベースで骨格コードを生成できますが、複雑な業務ロジックはルールベースだけでは生成できず、従来は開発者が手作業でコーディングする必要がありました。
この課題に対し、詳細設計書に処理内容を記載しておくことで、Justwareが生成した骨格コードとGitHub Copilotの提案を組み合わせて業務ロジックを提案させる運用に切り替えたところ、当社の検証用アプリケーションにおけるコード生成率は、ルールベースのみでは78%でしたが、GitHub Copilotの併用で99%にまで向上しました。さらに、ナレッジの審査・承認・発信を担当するモデレーターを配置したコミュニティ活動によって、社内で共有される1,000件超のユースケースを約200のナレッジへ体系化するなど、「拡大」だけでなく「定着」を重視した運用が行われています。
東芝テック|PoCで見えた「使うほど採用率が上がる」効果
300名が参加したPoCの狙い
東芝テックは、POSシステムや複合機(MFP)に代表されるハードウェア向け開発に加え、クラウド上で動くグローバルリテールプラットフォーム「ELERA」など、ソフトウェア開発の比重が急速に高まったことを背景に、2023年11月にGitHub Copilotを導入しました。コーディングアシストツールは4製品を比較検討し、知的財産権侵害リスクをマイクロソフトが負う「Copilot Copyright Commitment」や、対応言語・IDEの幅広さ、公開情報の豊富さなどを理由にGitHub Copilotを選定しています。
2023年11月から約半年間、社内だけでなく国内関係会社も含めた約300名の開発者が参加するPoCを実施し、開発者の生産性を多面的に評価する「SPACEフレームワーク」の指標の一つである「well-being(幸福度)」と、Copilotが提案したコードの「採用率」を継続的に計測しました。
「使い続けるほど成果が伸びる」という発見
PoCで明らかになったのは、単に生産性が上がったという結果だけではありません。GitHub Copilotによる開発者のwell-beingは、コーディング時間が長いユーザーほど高くなる傾向があり、コード採用率は、PoC開始3か月後の2024年2月には26.5%でしたが、5か月後の2024年7月には35.8%に上昇しました。利用期間が長くなるほどwell-being指数とコード採用率がともに上昇し、両者が相関するという関係も見えてきたといいます。この結果を受け、東芝テックは現在、設計・テストフェーズや要件定義などの上流工程へもGitHub Copilotの活用範囲を広げる取り組みを進めています。
マネーフォワード|Cursorを全職種に開放し開発プロセス全体を効率化
エンジニアだけでなくPdM・デザイナー・QAも活用
マネーフォワードは、AIコーディング支援ツール「Cursor」を開発プロセス全体に導入した実績が評価され、開発元のAnysphereが運営する公式活用事例に日本企業として初めて選出されました。同社の特徴は、エンジニアだけでなくPdM(プロダクトマネージャー)、デザイナー、QA(品質保証)など、開発に関わる全職種がCursorを利用できる環境を整えている点です。
具体的な成果指標
公式発表では、次のような成果が示されています。
- エンジニアの工数削減:週15〜20時間(Cursor利用者を対象とした2026年1月実施の調査結果より算出)。複雑な既存コードの解析やリファクタリング、インフラ構築にCursorを活用した結果、設計やパフォーマンス最適化などより付加価値の高い業務に集中できるようになったとしています
- QA工程の効率化:仕様書からのテストケース自動生成とテストスクリプト実装にCursorを活用し、テストケース作成時間を70%削減。品質保証活動を開発の初期段階に前倒しする「シフトレフト」も可能になったといいます
- PdMがコードから直接仕様を把握し、システム全体図や企画書(PRD)を作成できるようになったことで、トラブルや技術的制約を先回りして解消できる体制を構築
- デザイナーがコード上でプロトタイピングを行うことで、これまでエンジニアの説明を介してしか把握できなかったプロダクトの挙動を、実際に体験しながらデザインできるように
エンジニア以外の職種にもツールを開放することで、開発プロセス全域の生産性向上と「職種を越えたAIネイティブな組織」の構築を同時に実現している点が、マネーフォワードの事例のポイントといえます。
4社の事例から見えるコード生成AI活用のポイント
4社の事例を並べてみると、いくつか共通する傾向が見えてきます。
継続利用と定着化が成果を左右する
東芝テックの事例が示すように、コード採用率や満足度は導入直後よりも、利用を継続するほど高まる傾向があります。日立製作所がナレッジ共有コミュニティにモデレーターを置いて「定着度」を意識した運用を行っているのも、同じ発想に基づくものです。導入して終わりではなく、社内でのナレッジ蓄積や勉強会といった定着化の仕組みをセットで設計することが、成果を最大化する鍵になっています。
既存の開発資産・組織との組み合わせ方が差を生む
日立製作所は自社フレームワークとGitHub Copilotを組み合わせることで業務ロジックのコード生成率を大きく高めており、単体利用よりも高い効果を引き出しています。一方で楽天やマネーフォワードのように、エンジニア以外の職種にもツールを開放し、組織全体でAIネイティブな働き方へ移行するアプローチも成果を上げています。自社の開発体制やレガシー資産の状況に応じて、どちらの方向性を取るか(あるいは両方を組み合わせるか)を検討することが重要です。
なお、GitHub Copilotについては2026年9月以降、料金体系やポリシーにいくつかの変更が予定されています。導入・拡大を検討している企業の担当者は、以下の記事もあわせてご確認ください。
GitHub Copilotの料金・ポリシーが2026年9月から変更に|新規申込再開・チャット統合・コードレビュー既定変更を解説【2026年8月】
まとめ
コード生成AIの活用は、単発のコーディング支援から、開発プロセス全体、さらには非エンジニアを含めた組織全体の働き方を変える取り組みへと広がっています。楽天のClaude Code、日立製作所と東芝テックのGitHub Copilot、マネーフォワードのCursorという4社の事例に共通するのは、いずれも公式に数値を公開し、継続的な計測と定着化の仕組みを重視している点です。自社での導入を検討する際は、どのツールを選ぶかだけでなく、既存の開発資産との組み合わせ方や、利用を継続・定着させるための社内体制まで含めて設計することが、成果を出すための近道といえそうです。
